(最終更新:2024/2/1)

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 このお盆休みを利用してフランスへ行ってきました。フランスどころか海外が初めてなので色々と緊張しましたが楽しく過ごせて良かったです。さて、フランス語の曲としては多分日本で1番有名な曲《オー・シャンゼリゼ》について考えてみます。今回はジョー・ダッサン版でお届けします。ちなみに元々はフランスの曲ではありません。(後述)なお、ダイアクリティカルマークは外してあります。(Élyséesのチョンみたいなやつなど)

 

リリース:1969年5月

作詞:ピエール・ドラノエ

作曲はマイク・ウェルシュ

(Wikipediaより)

 元々は1968年にマイク・ディーガンによる英語詞で制作され、イギリスのバンド「ジェイソン・クレスト」によってリリースされた《ウォータールー・ロード》という曲があった。その音楽にフランス人作家のピエール・ドラノエがフランス語の歌詞を付け、歌手のジョー・ダッサンが歌ったものがリリースされ人気となる。日本ではフランスの曲といえば?の筆頭に挙がるほどの曲だが原曲はイギリスの曲だし、タイトルの<ウォータールー>はベルギーの地名ワーテルローのこと。ちなみに<ワーテルローの戦い>では日本でも有名な皇帝ナポレオン1世が率いるフランス軍が敗北を喫しており、フランス人にとっては複雑な思いのある土地。

 

 

 公式動画はこちら。ジョー・ダッサンの歌う日本語版もあります。

 

 

日本語版 

 

 

 

 
 楽曲形式は次の通り。
intro-Varse-Chorus-Varse-Chorus-間奏-Varse-Chorus-Chorus−F.O.
 典型的な洋楽スタイル(Varse-Chorus)。歌唱部分は3番→Chorusとスタンダードなスタイル。最後はF.O.(フェードアウト)する。
 

 

  イントロ

 

 イントロはこの楽曲の骨組みとなる和音進行を提示している。イントロと歌唱部分の和音進行は全てI-iii(or III)-vi-iiidim-V-I-II-V(-I)で作られており、「カノン進行」を変形したような形となる。またベースがi-vii-vi-v-iv-iii-ii-vとほとんど順次進行の下行形を取りつづけるため緊張感の少ない聴き馴染みのいい音楽となる。
 
 Varseの話をする前に、この楽曲は「スウィング」が使用されている。スウィングとは同じ音価の連続のうち前者を長めに、後者を短めに取ることで音楽にノリを生む演奏法である。それによってこの楽曲は全体に軽やかなスキップするような雰囲気がある。
 

 

  Verse

 

 Varseは2つの似たようなフレーズから作られている。また、フレーズは前半と後半に分けられる。
 前半は三連符を基調としたメロディが特徴的である。三連符の3つ目の音と続く四分音符はタイで結ばれることが多く、大きな2拍のリズム感が生まれる。三連符のうち真ん中の音だけが高い音に跳び、心弾むような音楽となっている。また前半は全体として順次進行の下行形を取っており、気持ちが昂るというよりは前を向いて歩いているような感じである。3回ある下行は全て長二度で推移しており、全音階的な浮遊感を少し出している。
 後半は動きの乏しかった前半に対し全体的には上行形で多少動きのあるメロディが続く。しかし、派手な動きはなく、音の高さもそれほど高く上がらないため、盛り上がりはあまりない。Varseで2回のフレーズが繰り返されるが違いは終盤のメロディだけである。特に最後の4音は始めのフレーズに比べてあとのフレーズで長二度下がるだけである。
 
 

 

  Chorus

 

 Chorusも2つのフレーズから出来ている。
 1つ目のフレーズは、Varseのフレーズ前半のように2拍ずつ順次進行の下行形を取るメロディである。Varseと異なる点は①各メロディ始めの音価が二分音符であること。②後半で音の高さが上がることが挙げられる。①はVarse前半ではメロディ頭の三連符により音楽に動きがあったのに対し、Chorus前半では二分音符があることで音楽にゆとりと広がりを持たせている。②はVarseのフレーズは下行する前半部分と多少の上行形と動きのある後半で作られていたが、Chorusの1つ目のフレーズは前半のメロディを二度上にしてもう一度繰り返している。実はChorusはVarseと同じような音域(むしろVarseのほうが高い音がある)なのだが、①②のような違いが、このChorusを際立たている。
 2つ目のフレーズはVarseの2つ目のフレーズと全く同じ。これも特徴的な上、Chorus前半を際立たせるのに寄与している。
 

 

  間奏

 

 間奏はそぞろ歩きのようなサックスの音色が気持ちを明るくさせる。和音進行はii-V-I-vi-ii-V-Iで、他の部分と唯一異なり音楽に変化とエッセンスを与えている。
 
 
 

 

  歌詞

 

 
 大雑把な意味としては、シャンゼリゼには何でもあるわ!あなたと過ごせる幸せもね!みたいな意味である。<原曲>の『ウォータールー・ロード』も似たような意味である。
 
 
toi/tu
 それぞれ「トワ」「トゥ」と読み、英語でyouに相当し、強勢形と主語に相当する。フランス語では二人称単数(あなた)を指す場合には2種類の表現があり、この"tu"は親しい関係で使われる表現である。Varseでは、誰にでも話しかけたい気持ちからたまたま「あなた」と出会い、楽しい一夜を過ごすことで素敵なロマンスが訪れると歌っていて、あなたへの親しみが楽曲の始めから伝わる。
 
 
l'avenue
 分解すると「定冠詞:ラ」+「道:アヴェニュ」で「この道」の意味。この楽曲ではもちろん「シャンゼリゼ通り」を指すが、1番と3番でシチュエーションがだいぶ変わっている。1番では「誰でもいいからボンジュールが言いたい」なんて気持ちで1人ぶらぶらしていた"l'avenue"。3番では「他人だったけれども長い夜を愛し合った2人」が歩く"l'avenue"。同じシャンゼリゼ通りでも歩く人の気持ちや見えている景色は違っている。
 
 
Aux Champs-Elysees
 よく勘違いされるが「オー」は「前置詞:a」+「定冠詞の複数形:les」の省略形「aux」のことで「〜に、〜では」というような意味であり「Oh」という感嘆詞ではない。そもそもなぜシャンゼリゼが複数形なのかというと、Champ(単数形)は畑を、Champs(複数形)は農地を意味し、元々はここが農地であったことを表しているからである。また、Elyseesはギリシャ神話の楽園「エリュシオン」を表している。「シャンス・エリゼー」と読まない理由は、語末の子音と続く語頭の母音がくっついて発音されるためで、これを「リエゾン」という。
 Chorusで「オーシャンゼリゼ〜」と高らかに歌われるのだが、日本語にすれば「シャンゼリゼでは〜」といった感じ。フランス語話者にとってはこれだけではもどかしい。何がシャンゼリゼにあるのかと言うと、「あなたが欲しいものはなんでもある」と歌っている。フランス人やヨーロッパ人は大変ロマンチックなイメージがあるが、やはりこの楽曲でもロマンスは大きな精神的充足をもたらす「欲しいもの」の1つなのだろう。またフランス・パリの中でも特に栄えていて、よく整備された美しいシャンゼリゼ通りでは、ロマンス以外に物でもハートでも何でも揃っているのだ。
 
 
 
 フランス旅行でシャンゼリゼ通りも歩いてきました。片やエトワール凱旋門、片やコンコルド広場のオベリスクが見える一本道でパリらしさを全身で感じられました。おしゃれなカフェがいっぱいあるイメージがあったのですが、どちらかと言うと高級百貨店やブランド店が立ち並んでいるハイセンスな通りでした(もちろんカフェもありました)。ちなみにセーヌ川クルーズで海外の旅行客?がこの楽曲を歌っている場面にも遭遇しました。