(最終更新:2024/2/1)

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 1945年8月6日に、広島市に米国によって原爆が投下されました。日本は唯一の被爆国として、その役割と災禍の下、平和への活動を続けています。今回は広島にとって平和の願いを込めたシンボルの1つである《ひろしま平和の歌》について考えてみます。

 

制定:1947年8月6日

作詞:重園贇雄(しげぞのよしお)

作曲:山本秀

(Wikipediaより)

 

 1947年に行われた「平和祭」に向けて制作された 以降も広島平和記念式典で毎年歌われている。作詞は公募され、また作詞者、作曲者ともに学校教員であった。

 

 

 公式動画はこちら

 

 

 楽曲形式は今回、三部形式として考える。それぞれ異なる6つのフレーズからできているが、2フレーズで1つとしたA-B-C形式とする。

 

 

  A

 

 Aは主和音を中心にした和音進行でたいてい1小節挟めば主和音に帰ってくる。緊張感が少なく、安定した穏やかな進行である。

 前半のフレーズは属音から始まり下行してから上行して属音まで戻ってくる。大きな流れとしてたわんだ紐のような旋律となり、落ち着いた印象を受ける。はじめと終わりが主和音となることにも起因するだろう。言葉で書くとややこしいが前半フレーズの後半はアウフタクトと直後1小節と最終1小節で旋律が性格的に異なり、アウフタクトと直後1小節は順次進行の山型で直後にくる歌詞「ところ」を修飾している。最終1小節の「ところ」は上行跳躍が含まれており音楽に動きを生み出しているが属音に落ち着く。

 後半のフレーズはまず属音から主和音への上行跳躍から始まり、和音も下属和音となる。前半のフレーズに比べて少し目立つこの部分は「〜のはて」という歌詞があるように、広さや遠さを表しているようだ。全体的な旋律の形を見てみるとフレーズ頭が頂点で下行してくる形をとっており、一時的な緊張はあったがフレーズ全体としては落ち着いた印象を受ける。

 

 

  B

 

 Bの2フレーズに共通しているのはドッペルドミナントである。ドッペルドミナントはII-V-Iの進行で解決し、主和音に向けて強い緊張感(推進力)を持つ。

 前半のフレーズは「おお〜」の歌詞から始まり、アウフタクトを含めてI-IV-Iの解決となる。ここで一区切り感が生まれ、呼びかけるような旋律となる。続く旋律は短い3音と長めの4音で文節が分かれ、音楽にも違いが現れている。歌詞で見ると短い3音は目的語を、長めの4音は動詞を指している。4音が長めなのは、その動作とそこに込めた思いをしっかり歌うことができるからであろう。音型も跳躍が中心となっていて目立つようになっている。先程述べたようにここはドッペルドミナントを含む強い緊張感を持つ。

 後半のフレーズは1〜3番全て同じ歌詞である。直前のドッペルドミナントを含む進行からアウフタクトを経て上行跳躍へ解決し、上行する。つまり、直前のフレーズは「鐘はなる」に向けての緊張であり、それによって鐘の音が高らかに響くような印象を強めている。音楽のみならず、歌詞も直前から繋がっていることは意識すべきである。続く「平和の鐘に」は対象的に低めの音で歌われる。しかし、上行形の音型とドッペルドミナントを含む進行が同様に次のフレーズへの緊張を高めている。

 

 

  C

 

 Cは楽曲の最高音が出てくる部分であり、最も訴求力が高い部分である。

 前半のフレーズは力強い四分音符の「いま我ら」から始まる。跳躍が基本で、主和音の構成音をしっかりと踏みしめるように最高音まで上る。決意の表れであろう。また、文意を反映するために「わ」にアクセントがつけられている。続く旋律はアウフタクトを含めてI-IV-Iの柔らかい進行で流れ、一旦落ち着いた様子を見せる。前半フレーズの一番最後の小節で二分音符-四分音符の音型があるが、この四分音符は全フレーズ中唯一である。これは緊張感は少ないものの、直後のアウフタクトに向けて推進力を持つものである。

 後半のフレーズは順次進行の上行形から始まり、最高音まで達する。直前のフレーズを受けて、「我ら」が大切にすべき何かを強く前に打ち出している。続くフレーズでは「ここに」は付点四分音符を含むフレーズであるが、その後は四分音符のリズムでメロディが歌われる。最後が四分音符(拍通り)で歌われると終止感がよく出る。また最後の歌詞は1〜3番いずれも意志を表しており、上行形で終わることでその意志の強さを印象づけている。

 

 

  歌詞

 

 歌詞はそれぞれの思いで歌ってほしいので、今回は分析しない。1つだけ言及するとすれば五七調である。

 

 

 毎年この時期になると戦争の話題がよく出ます。私達は戦争を知らない世代ですが、できることはやっていきたいですね。取り急ぎとはなりますが、ここに平和の祈念として。

 

 今回参考にした楽譜が掲載されています。

広島市のホームページ