(最終更新2024/1/18)
※昨今、映画『バービー』と原爆を絡めた画像などが見られています。原爆を遊び道具にすることは断じて許されません。今回紹介する《Barbie Girl》は映画、騒動とは無関係です。ご承知おきください。
最近、映画『バービー』が流行っているようですね。その映画とは全く関係ないんですが今回は北欧のバンドAQUAの《Barbie Girl》について考えます。邦題だと《愛しのバービーガール》らしいです。なおメンバーの名前のスペルは環境を考えてダイアクリティカルマークを外しています。
リリース:1997年5月14日
作詞・作曲:Lene、Rene、Soren、Claus(当時のメンバー全員)
デンマークとイギリスでチャート1位を記録
(参考:Wikipedia)
バブルガムポップと呼ばれるキャッチーなメロディを主体とした軽快な曲。AQUAはデンマークで最も売れたバンドらしい。
公式MV動画はこちら。なお途中に出てくる日本語は字幕ではなく本当にMVで使用されている。
楽曲概観
楽曲形式は上記。3分半程度の短い曲だがメロディはコロコロ変わる。とても複雑に見えるが基本は洋楽スタイル(Verse-Chorus)スタイルでAがChorus、CがVerse、DがPreChorusとなる。しいて言えばBがBridgeか。
無理やり1番、2番に分けるならC−D−Aを1つの塊としてそこにBが入り込む形になるだろう。その要領で、intro-A-B-Aまでで大きなイントロと考えることもできる。
こんなに明るいが短調の曲である。
イントロ
MVではドラマ仕立てのシーンから始まり、会話が交わされる。この際、楽曲中で重要な和音が伴奏としてストリングスで演奏される。(譜例1)
根音が4度ずつ上行(または5度下行)する進行(変進行)が続き、これは《残酷な天使のテーゼ》のサビでも見られるようなコード進行である。進行のほぼすべてがドミナント→トニックの解決で成り立っているため、緊張感が少なく安定した推進力がある。この流れを便宜上<バービー進行>と呼ぶ。(特に譜例1の黄色)
A
AメロはChorusにあたり、この楽曲の看板部分である。イントロのコード進行(バービー進行)を基調とし、ほとんど和音構成音からなる跳躍のメロディである。このわかりやすく単純な和音とメロディが楽曲をバービーの世界のようにビビッドな世界観に仕上げている。
その中でもフレーズ中ほどにある休符(譜例2の黄色)や、たまに現れる非和声音(譜例2の赤)が底抜けの明るさの中に、少し哀愁を感じさせていることにも注目したい。
Aメロは同じフレーズを2回繰り返すが歌詞はどのAメロも全く同じであり、とても頭に残る。Chorus部が強く印象付けられるのは典型的な洋楽の特徴でもある。
B
Bメロは「Come on Barbie, let's go party」というワンフレーズの歌詞を繰り返し、ビートを刻むように歌う。また、最初のB部分以外は上記フレーズ後に「Ah」や「Ooh」というハイテンションな別フレーズが続く。
コード進行は<王道進行>とか<ファソミラ>とか呼ばれるもの。バービー進行と同じく強い解決感がないのが特徴で曲の疾走感を損わない。一方で他の部分と異なるコード進行であることからBメロに特別な存在感を与えている。
C
CメロはVerseにあたり物語性の強い部分である。和音進行はバービー進行を基本にしたもの。
音の動きが小さく順次進行するメロディはA(Chorus)と比べて落ち着いた印象を与える。歌詞では対話が描かれていて、前半はバービー(Lene)、後半はケン(Rene)が歌う。英語のVerse=詩のとおり伝えたいこと、誤解を恐れず言えば求愛が綴られており、落ち着いたメロディがリアリティを生み出している。
D
DメロはPreChorusにあたりChorusへと向かう部分である。コードはバービー進行を基にしたもの。
メロディの形はCメロと同じくアウフタクトを持つフレーズで、揺れ動きながらも一定の音の高さを保っている。これによりCメロとのつながりとアルペジオ的に跳躍するAメロ(Chorus)との対比が生まれている。
歌詞はどこに現れても一緒で、意味は挑発的とも甘えているともとれる内容。
アウトロ・全体を通して
アウトロはイントロと同じくセリフが主である。後ろでストリングスが鳴っているがコードはイントロと異なりBメロの<ファソミラ>を基にしたもの。
楽曲を通して<バービー進行>や<ファソミラ>などよく聞かれるコード進行で構成されており、悪く言えばファストフードのような曲である。しかしそのわかりやすさがノリや明るさ、爽やかさを演出するにはむしろ好都合だと気付かされる。
歌詞
そもそもこの曲はコミックソングにも近いような存在で、Cメロ(Verse)以外は歌詞が全部一緒である。和訳をざっくりすると「私はバービー、あなたの手で自由にして」といったところだ。
Barbie
この曲の最重要人物であるBarbie。皆さんご存知の通り樹脂製のきせかえ人形で、この楽曲の主人公である。が、Chorusではじめに歌うのは ” I'm a Barbie girl ” でBarbieにgirlがついている。
もしかしたら主人公はバービーそのものではなく<バービーみたいな女のコ>なのかもしれない。となるとこの楽曲の世界は箱庭のお人形遊びではなくなり、現実世界の一側面を示しているようにも考えられる。
また、Barbieとはスラングで「頭の足りない見かけだけ良い女性」を指すことがある。この楽曲にもBarbieを “ bimbo ” (侮蔑的表現、<貧乏>ではない)と形容する場面があり、それを意図して制作されていることがうかがえる。それを勘案するとこの曲は愛らしいものから途端に滑稽で空虚なものへと変貌する。
party
ケンはしつこくパーティに誘ってくる。短い曲なのに14回も誘ってくる。傍から見たら異常だ。だが、もしかしたらBarbieだけがそう感じてるだけかもしれない。
男の人は自分勝手でいつも自分の都合ばかり考えている。本当は私の方を向いて甘い言葉の一つも欲しいのに、彼が自分勝手に声をかけるばかり。一緒に過ごす時間も大事だけどただ1つの愛の言葉で世界は変わるのよ。恋ってそんなものでは?
Imagination, life is your creation
英語はよく韻を踏む。Aメロ(Chorus)最後のこの歌詞も"-tion"で韻を踏んでいる。ここの和訳は「想像してみて、人生はあなたの創造物」みたいな感じだろう。ここでのlifeはさしずめBarbieの人生であり<あなた自身の人生>といったところだろう。
さて、和訳を見てみるとなんと、想像と創造で韻が踏めている。この楽曲に和訳版があるかは知らないが、その時はここの翻訳には期待したい。
とても耳に残る曲です。ひたすら聴いてしまいます。MVもなかなかおもしろい。