翌朝、ヴァル・カーン・フレッド・ゼン・メル・クレアの6名は、魔女の城へ向かった。城門前までは、ビュール・ハドル・ラック率いる兵達が護衛としてついてきた。
「此処までで。僕達だけで行ってくる」
「何かあれば、呼んでください。すぐに駆けつけます」
6人が、馬から下り歩いて城の中に入っていくと、兵士達は、3つに別れ、3箇所の門の前を囲んだ。6人は、城内に入るとクレアの案内で大きなエントランスホールの階段を上がり、天井の高い長い長い廊下を奥へ奥へと進んだ。魔女の城は、冷たく暗い部屋が続いた。そして、一番奥の黒く重たいドアを開けると、明るい大理石の大広間があり、その一番奥の壇上に煌びやかな椅子が2つ有る。一つにはドクロが置かれ、もう一つに年老いた老婆が座っていた。
「いらっしゃい」
戦場で見た姿よりも年老いている。
「イブリ…」
「やぁ、フレッド王。妹のアイリーンは元気か?」
「娘はどこだ!?」
「………」
イブリは、不適に微笑んだ。
「良い顔だ。私はその顔が見たかったのかもな…」
そう言いながら、隣からドクロを取り、自分の膝に乗せた。
「すべての始まりはお前だフレッド」
「…!」
「分からないとは言わせないぞ」
険しい顔になったフレッドは、手に光の球を作ろうとした。
「落ち着け」
イブリは、クレアを見た。
「クレア、そこの二人は髪の毛とアデラが欲しいんだね?」
ゼンとメルを見て言う。
「さようでございます」
クレアは、忠臣のようにイブリに頭を下げた。それを見て、イブリは悲しそうに頬んだ。
「君にはすっかり騙されたよ」
「…申し訳ございません」
「いったいどうやって、この子を懐柔したのか、気になるね…」
クレアを死から復活させたのは、イブリだった。メルとクレアの母が亡くなってすぐ、クレアの夫は家を出ていった。「俺の役目は果たした」と言って。
「母は、相変わらず家族の陰口を近所の人達に言っていたの」
クレアの言葉に、メルは母ならやりそうだと思った。メルも一緒に住んでいた時、近所の人達に悪く言われ、酷い時は近所の人から説教された。
(実の娘が我慢できずに家を出たのだから…普通の事か…)
「ずっと我慢させていた。それで、やっと母が亡くなって、自由が手に入ると喜んでたのに…」
クレアは悲しく、森へ入り自殺した。それを復活させたのがイブリだった。
「記憶は全て、イブリ様が消してくださった。全ての悲しみや後悔も…全部」
そして、魔法を教えた。
「いつの間に記憶を取り戻していたんだ?」
イブリの問いに、クレアはゼンを見た。
「彼が夢の中に出てきたんです」
連日のように夢に現れ、記憶を全て思い出させた。悲しみ、後悔だけでなく、喜びや楽しかった記憶、幸せな瞬間も。
「最初は、恨みました。私にとって、忘れている方が生きるのに楽だったから」
「君はすでに死んでいる」
ゼンの言葉にクレアは頷いた。
「そして、彼は私に「今度こそ後悔しない時間を過ごせ」と言いました」
そんな中、メルと再会した。
「最初、姉さんに対して恨みが出たわ。私達を見捨てた裏切り者ってね」
「………」
「でも…私に対する悪口より、姉さんに対する悪口の方が、母は多かったものね…ごめんね」
そこから、色々と考えるようになった。
「イブリ様には、本当に感謝しているのです。ですが…裏切る事になってしまい申し訳ありません」
クレアは再び深々と頭を下げた。
「…もう良い」
イブリは溜息と共に言った。
「クレア、そこのお二人とフレッド王をあの部屋へお連れして。アローレンの体もそこに有るから」
「かしこまりました」
クレアは、3人を連れて、奥の部屋へと連れていった。そこには、髪の毛が大量に入った大瓶と、アデラが居た。メルはアデラに駆け寄る。
「…」
微かな息をしている。
「アローレンは、どこだ?」
辺りを見ても、その姿が確認出来ない。クレアは静かに天井を指した。
「っ!!」
大きなクリスタルの棺が、天井からぶら下げられている。フレッドは魔法を使って、クリスタルを支えるワイヤーを切ろうとした。
「っ!?」
魔法が発動しない。
「もうしわけございません。この部屋は、魔法を発動させる事が出来ないようになっています」
「え?」
メルは慌てて、扉に駆け寄った。ガチャガチャやるが、動かない。
「開きません!」
「お前!」
フレッドは、クレアを睨みつけた。
「落ち着いてください。ほんの少しだけお時間をいただきたいだけです」
3人だけとなった大広間で、イブリはジッとヴァルを見ていた。
「悔しいな…こんなガキに敗れるとは…」
イブリは苦笑しながら、ドクロの頭を撫でた。物陰から魔物達がぞろぞろと出てくる。
「っ!」
「あぁ、奥の部屋はしばらく扉は開かないぞ」
カーンの視線に気づき、イブリは言った。
「安心しろ。お前は大人しくしていれば殺さない」
そう言いながら、魔女はヴァルの前まで歩いてきた。
「気をつけろ、ヴァル!」
「そう警戒するな」
ヴァルは、さっきからジッと見ているだけで微動だにしない。
「ヴァル、この年寄りの最後の願いを聞いてくれないか?」
「なんでしょう?」
「心臓が欲しい」
ヴァルの背後に廻ったイブリは、ヴァルの耳元で囁いた。
「そうしたら、あの小僧も、お前のおじい様達も助けてやろう」
「嫌だと言ったら?」
「良いのか?あの部屋は、生命力を奪う部屋だ。長寿だから平気か?そうか。それにクレアはすでに死人だ。関係無いな…あぁ…メルという女は簡単に死ぬぞ」
「っ!」
見ていると、イブリの姿がみるみる若返っていく。
「見よ。あの者達の生命力が、私にチカラを与えてくれる。メルは今にも死ぬような苦しみを味わっているだろうね」
イブリはニヤニヤしている。
「人間死ぬ時、どんな風に死ぬか、知っているか?」
険しい顔になっていくヴァルを見ながら、イブリは続けた。
「気道が締まる。呼吸が上手に出来なくなり、それに苦しみながら死ぬんだ」
「っ!」
「お前が迷っている間、メルは苦しむ。あの部屋に居る限り、フレッド達でも助ける事は出来ない」
くくくくっと笑うイブリに、ヴァルは観念した。
「助けてください」
「?」
「僕の心臓を上げます。だから、みんなを助けてください」
「ヴァル!」
ヴァルは魔女に跪いた。イブリは、ヴァルの顎を持ち上げて微笑んだ。
「お前の心臓など要らない」
「…え?」
「俺の!俺の心臓をやる!」
魔物に阻まれながら、カーンが叫んだ。
「私が欲しいのは、若い女の心臓だ」
「…」
「この娘の心臓が欲しいのさ」
魔女は、手鏡をヴァルに見せた。
「っ!」
そこに映っていたのは、エリトアとまだ小さな子ども達だ。
「いったい何を…」
魔物に囲まれ、エリトアは子ども達を守ろうと震えながら剣を持っている。
「恐怖に陥った、この子達の心臓と生き血。それで私は復活出来る」
「っ!!」
「お前達の心臓は、感じる恐怖が少ない。だから意味が無い。私が欲しいのは、これらなんだよ」
ふふふと笑うイブリにヴァルは愕然とした。
「助けたいか?だが、残念ながらリースター国の血を持っているのに、お前は魔法が使えないだろ?」
(…魔法…)
ちらりと後ろを見ると、カーンは魔物達に羽交い絞めにされている。ヤタの入っている小手の上に剣が置かれ、今にも手を切り落とそうとしている。
「やめろっ!」
慌てて声を上げると、自分の首元に冷たい物が当たった。
「っ!」
「娘たちの心臓を差し出すか、仲間達の命を差し出すか。お前に認められる発言はそれだけだ!」
イブリが剣をヴァルに向けていた。
「…いやだ…」
「?」
「イヤだ!」
「どちらか差し出せ!!」
「嫌だ!!!!!」
その瞬間、ドンッとヴァルから光の太い柱が立った。
「っ!」
柱は、天井を突き抜け、外で待機してく兵士達にも見えた。
「…」
光の柱の出現で、魔物達は吹き飛んだ。
「ヴァル!」
光の柱が消えると同時に、ヴァルは崩れ落ちた。
「しっかりしろ、ヴァル」
駆け寄ったカーンがヴァルをしっかり抱き上げる。
「…貴様…?」
カーンはイブリを睨んだが、かがんでヴァルの顔を覗くイブリの顔は、穏やかだった。
「大丈夫。気を失っただけだ」
その顔は、非常に優しく微笑んでいる。そして、その姿はまた老婆の姿へと変わっていった。
「ヴァル!カーン!」
驚いていると、奥の部屋からフレッド達が出てきた。
「イブリ様!」
クレアは、フラフラのイブリに駆け寄ると、その体を支えた。ゼンがヴァルのところへ来た。
「うん。もう目を覚ますよ」
ゼンの言葉に安心すると、その言葉通り、目を覚ました。
「ヴァル…」
ヴァルの視界に、見知らぬ女性が立っていた。
「ヴァル。お前の母、アローレンだ」
フレッドの言葉に、ヴァルは困惑している。
「今のあなたのチカラで、目覚めることが出来たの」
「…は…母上…」
「うん」
ヴァルとアローレンは強く抱きしめあった。
「わざとか?」
カーンは、先ほどから微笑んでいるイブリを見た。
「すまないね。姪っ子を眠らせたのは良いんだけど、どう起こしたら良いか分からなくてね。もう私にはほとんど魔力が残っていなかったし…」
「あれ?母上…この指輪…」
「えぇ。あなたのよ」
それはエリトアに渡した物だった。
「安心しろ。本物のお嬢ちゃんは、何事も無く平穏に過ごしている」
大きな鏡に、平和なエリトアの村が映し出された。
「お前のチカラを呼び起こすのに、偽の映像を見せたんだ」
昨夜、アデラに「全てを許せ」と言われ、色々と考えた。アークと駆け落ちし、それをフレッドの兵士達が追いかけてきた。どれだけ逃げても、追いかけてくる。対抗するために武力を持つ必要が有った。
「お前達が私を追わなければ、起きなかったんだ」
「我々は、お義母上に娘が誘拐されたと聞いて…」
「そうだな…それにあの当時の私は、リースター国の者で有りながら、チカラが使えなかった」
自分が魔力を持っていないことで、母に出来損ないと言われても、なかなか強く反論出来なかった。
「お前のチカラを発動させたのは、なにもアローレンを起こすためだけじゃない。そのチカラは、かならずお前のためになるだろう。そして、願わくば…それを正しく使って、本来私達夫婦が作りたかった誰も苦しまない幸せな国を作ってほしいんだ」
「…え?」
驚く面々にイブリは苦笑した。
「いつからか、おかしな方へおかしな方へと動いてしまった」
怒りや悔しさ、悲しみは、原動力とはなるが、舵取りが難しくなる。
「人だから怒ったり悲しむのは普通だ。だが、何かやる前に、まず頭を冷やしてから動きなさい」
そうじゃないと、私達のようになる。
「アローレン、すまなかったね。大事な時間を奪ってしまった」
子どもの成長を見られなかった。
「悔しかった…」
夫を殺された時、アローレンが赤ん坊を抱えている姿が見え、とっさに呪いをかけた。
「私達にも子どもが居たら、何か変わっていたのかな…」
「…イブリ様?」
イブリの目がだんだんとうつろになってくる。
「…ゼン殿。ご兄弟をお返しいたします」
イブリは、そう言ってドクロをゼンに差し出した。
「アークの双子のお兄さんでしょう?」
ゼンは、頷いた。そして、そのドクロをイブリの腕の中にしっかりと抱かせた。
「彼は、あなたを愛してました。それは今も変わりません」
「私も…愛してました」
「ありがとう。弟を愛してくれて」
イブリの目から涙がポロポロと流れた。
「あなたが死んだと聞いた時、夫は酷く取り乱したんです」
「そう…でしたか…」
「死んだのは、本当なのね?」
ゼンは頷いた。
「弟がやった事をなんとか出来ないかと死んだ後も考えていたら、こうして死神として復活していました」
「あなたがいつか来てくれると、夫はずっと待ってました」
イブリは、ゼンの手を握りながら言った。
「先に弟のところに行ってください。少し遅れますが、私も行きます」
イブリは微笑んだ。ガタガタと城が揺れ始める。
「もう行ってください。この城は、私が死ねば崩れます」
そこに、メルがアデラを抱え魔女イブリの隣の椅子に座らせた。
「彼女は、あなたと一緒に居たいそうです」
椅子を押して、イブリの椅子と近づける。うっすらと目を開けたアデラは微笑んで、イブリの手を取った。
「お母さん」
「…っ!」
イブリは、涙をポロポロと流した。クレアも、イブリとアデラの手を取った。
「私もここに残ります」
それは、永遠の別れの宣言だった。
「身勝手でごめん。娘を…お願いします」
クレアの言葉に、メルは泣きながら頷いた。次第に揺れ方が激しくなっていく。
「退却ー!!皆!!退け――――!!!」
城の揺れは、外で待機していたビュール達をも襲った。グラグラと地面が揺れる。
「建物から離れろ!」
バタバタと動く中、ハドルは周りを見渡した。
(ロンが居ない…)
「くっ!開かない!」
先程から、皆が大広間の扉を開けようとしていた。が、揺れで変形しビクともしない。フレッドが風で扉を吹き飛ばそうとするがそれも出来ない。次々と柱や天井が崩れ落ち倒れてくる。
「アローレン様!」
ふいに、落ちた天井から黒馬が顔を出した。
「ロン!?」
ロンは翼を広げ、大広間に降りてきた。
「まぁ…あなた…」
「お久しぶりです」
「え…えぇ…」
不格好なペガサスにアローレンは目をぱちくりさせている。
「すみませんが、私の封印を解いてください」
「あ…もしかして…」
「はい。解き方が中途半端で」
ロンは、ジッとゼンを見た。
「飛ぶ練習は出来ただろう?」
苦笑するゼン。
「分かったわ」
アローレンはロンの頭を持つと自分の額とくっつけた。何やらブツブツと言っていると、ロンの体が輝き始めた。
「っ!!」
1匹の大きな黒いドラゴンが大広間に姿を現した。
「さぁ、皆さん、早く。私に乗ってください」
ドラゴンの声は、間違いなくロンのものだった。
「後で説明するから!みんな!早く!!」
アローは、戸惑う皆をドラゴンの背に導き、ドラゴンは皆が乗ったのを確認すると、空へと飛び出した。ドラゴンに、驚いたのは外にいた者も同じた。
クレアは、イブリとクレアの手に剣と金貨の入った袋を持たせた。
「迎えが遅くなり申し訳ない。よく頑張りました」
黒いマントに大鎌、ドクロの仮面。
「二人を苦しみのこの世から救い出そう。そして、新たな命を与えよう」
死神の言葉に、二人は嬉しそうに微笑んだ。
「っ!」
サッと大鎌が二人に振り下ろされた。
「まだ魔ドラゴンが居たか!」
皆は、恐怖から黒くて大きなドラゴンに矢を射始めた。
「中の皆は、どうなったんだ!?」
「城が崩れていきます!」
ハドル達の間に、ヴァル達の死が連想された。
「おのれ!悪魔め!!射落とせ!逃がすな!!!」
ビュール達は容赦なく、ドラゴンに矢を射た。
「何するの!皆!止めて!」
「気付いていないのか…」
アローとフレッドは、必死で風の鎧をドラゴンの周りに作った。
「ロン…」
ボーとした状態でヴァルが、ロンの背にうつぶせに抱きつくように寝ていた。
「ヴァル!」
アローが、気付いた時にはヴァルの体は透け、次第にロンの体に吸い込まれていった。
「っ!」
ロンの体が、どんどん金色に輝き始めた。
「え?」
ラックは目を疑った。
「あ、あそこ!陛下がいらっしゃる!」
ハドルは、金の龍の背に自分達の王が乗っているのを確認した。皆は、攻撃を止め、ドラゴンが無事に地上に降りると、足元に駆け寄った。皆が背から降りると、ロンはその大きな体を倒した。
「ロン!しっかりしろ!」
「!」
見ていると、馬の姿に戻ったロンと一緒にヴァルの姿が現れた。
ヴァルは、夢を見ていた。それは、まるで背中に鳥の翼でも手に入れたかのように、雲一つ無い晴れた上空を気持ち良く飛んでいる夢だった。ヴァルは、空を飛べる事の楽しさに夢中で飛び回っていたが、ふと眼下の景色が気になった。
『…ここは…どこなんだろう。…なんだか遠い昔に来たような…どこか懐かしい…』
眼下に広がる大地は、緑がほとんど無い。山は剥げ、殆どが黒茶色の土地で、どう考えてもヴァルが行った事のある場所では無い。荒れ果てた大地では人々が、畑を作るために農作業をし、別の方では石のレンガを積み上げ家を建てている人々がいて、また、別の方では、人々が汚れた川の掃除をしていた。
『………』
そんな様子をしばらく見ながらゆっくり飛んでいくと、見覚えの有る城が目の前に現れた。
『え…?ここは、グリア国?』
旋回しよく見てみると、知った顔が居る。それは、若い頃のエドルフ王やリドー達、コカやオーガスだった。
『…母上…?』
気が付くと、ヴァルは薄暗い地下室に居た。そして、そこに一人の女性が立っている。それは、まだ幼さの残るアローレンに似ていた。女性の足元に鎖に繋がれた黒い物が居る。死にかけた犬に見えたが、よく見ると犬ぐらいの大きさの黒いドラゴンだ。ドラゴンは、目にいっぱい涙を溜め、苦しそうにクゥクゥ泣いていた。
「可哀想に…まだ、こんなに小さい…」
女性は、そっと屈むとドラゴンの頭に手をかざした。しばらく見ていると、ドラゴンは子馬に姿を変えた。
「これで、大丈夫。これで、あなたの本当の姿を知っているのは私だけ…生きなさい」
女性は、優しくその子馬を抱きしめた。
『!?』
場面は、パッと変わり、眼下では少し大きくなった先程の子馬と女性が、木陰で涼んでいた。女性は、何やら木の板に書くと、子馬に見せて微笑んでいた。そうしていると、泥だらけになり、汗をびっしょりかいた若いエドルフが汗を拭きながら、木陰へと来た。アローレンは、その男性の所へ駆け寄ると、先程の木の板を見せた。
「これは?」
「私達の国章よ」
「国章か」
円が幾つも重なり、花のように見える。
「良いね」
男は、嬉しそうに女の頭を撫でた。
「強くて、優しい国にしような」
「えぇ!周りが、ほっておけないぐらいにね」
「やっぱりまずは…王子が欲しいな…」
「元気な男の子でね」
「産んでくれる?」
「…私以外の女に産ませる気?」
ふざけながらも、二人は今の幸せを噛み締めていた。
「名前は何が良いかしら?」
「ヴァルってのはどう?」
「あなたの母国の名前ね」
「もともとのこの国の名前だ」
「きっと良い子に育つわ…それなら、ロンは、その子の愛馬になるのね」
「君は、僕らの子を守ってくれるかな?」
王が、子馬の顔を覗くと頷いて見せた。
「あははっまるで、僕の言葉が分かるみたいだね。宜しく頼むよ」
「早く会いたいわ…ヴァル」
「理想の家族になろうね」
少し大きくなったお腹を撫でながら、2人は、そっとキスをした。
『………』
ヴァルは、泣いていた。嬉しくて嬉しすぎて、ずっと見ていたい、自分が生まれる前の若き父と母の姿。自分が生まれてくる事を望んでくれている場面なのに、大粒の涙を流し、しゃくりあげて泣いていた。
「私の幼い頃の記憶だ」
後ろに来ていたロンは、優しくヴァルの背中を頭で擦り、ヴァルの気が済むまでそのまま泣かせた。
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