⚪35歳の受賞のとき、まさにあのとき、すべてが変わりました。もしも読者の中に、どんなに努力してもこの場所では落ちこぼれているという人がいるなら、別の場所でチャンスを探すというのもありかな、と思います。そしてそれは、いくつになってもできることなんです。
⚪篠田さんのモットーは「考え込むな、突っ走れ」。
「これは30年以上前にある方が新聞記事でおっしゃっていたんですけど、『チャットなんかやってる暇があるなら、フランス語の単語の一つでも覚えろ』って。20代半ばだった私には、その一言が刺さりました。どうでもいい人間関係のために割く暇があれば自分を磨け、ってことですよね。暇な人間は、対人関係に拘泥しておかしくなる。悩むよりは学習する、練習する、積み重ねる。努力をしていれば、少しでも前に向かって進める。…
⚪ストイックな創作活動を支えているのが、チェロ。10代からレッスンを続けているという。
「クラシックを演奏して優雅なイメージかもしれませんけど、実は全然優雅ではなく、チェロは9割5分までトレーニング。でもそれで精神の健康を保てる。人間いろんなことがありますから、悲観的な気分になることも疲れ果てて憂鬱になることもある。そういうのって、考えても解決できない。無理して正面から向き合ってしまうから、自分がおかしくなっちゃう。そういう時にお酒とか薬に逃げる代わりに私は作業に逃げる。トレーニングに逃げるのがいちばんいいですよ。上手になるために何度も何度も反復練習しているうちに精神状態が前向きになっています。落ち着きます。小説家なんていう職業につきながら深酒もせず、精神安定剤にも縁がなく、この歳までこられたのは、チェロのおかげです。皆さんも、抜け出せないときは、何かトレーニングが必要なものを見つけて、その作業に没頭してみたらいいと思いますよ」
(ほっそりとしたエレガントな長身には、ダイナミックな作品を生み出すタフな精神が宿っている。自分の中の弱さ、もろさを飼い慣らしながら、作品と人生を鍛え上げてきた)
B11月号