「わかんないって・・・」
「いちいちうるさいんだもん。みんな」
珍しく聞くような言葉だった。
君はあんまり愚痴とか悪口とかそういうことを言わない優しい人だから。
「何か言ってくるの?」
「細かい指導が毎日のように。まあ、それだけならいいんだけど・・・」
「他にも?」
「うん。公私混同で束縛されるんだよね」
「どういうこと?」
「異性とあまり二人では話すな。仲がよさそうに見えるような行動は取るな、だって」
彼女は俯いてため息をついた。
「それが嫌なの?」
すると彼女はムッとして
「当たり前じゃん。私だって異性と話すことぐらいしたいよ」
「そうだよな」
「それに・・・こうして話してるのもきっとダメだし」
少し言いづらそうに言った言葉は微かに聞こえるくらい小さな声だった。
「そっか・・・。じゃあ、帰ろうか?」
僕は彼女に背を向けて歩き出そうとする。
すると「待って!!」
彼女が僕の方へ走ってきて、袖を掴んだ。
「どうしたの?」
振り返らずに僕は聞いた。
振り返ると、彼女の手を離してしまうことになるから。
「もう少しだけ・・・一緒にいたい・・・」
その言葉のすぐ後に、背中に重みを感じた。
コツンとぶつかったそれはきっと彼女の額だろう。
ドクン・・・。
心臓が高鳴った。
じかに彼女に触れているわけじゃない。
握られた袖も、ぶつけてきた額も。
どちらも服に触れているもの。
それでも、彼女に触れているような錯覚に陥る。
「なんか・・・あった?」
「なんにもないよ・・・ただ、不安だった」
「不安?何に対する?」
「・・・そんなの決まってるじゃん」
彼女の袖を握る力が強まった。
「なに?」
分からない僕は答えを催促する。
「ばか・・・」
罵倒する言葉は震えていて寂しさに満ち溢れていた。
それが持つ意味は分かった。
けど、自信がなかった。
そんな自分の答えに。
あり得るはずのないそんな答えに。
だから僕は「え・・・?」って言ってしまったんだ。
「なんでもないよ・・・」
彼女は僕から離れた。
振り返ると彼女は笑みを浮かべた。
その笑みは無理をして作られたもの。
こんな辛そうな彼女を見た時、僕はどうすればいい?
近くよって抱きしめればいい?
慰めの言葉をかければいい?
それとも優しい口づけをすればいい?
どれも、僕には到底無理なことばかり。
相手がなにを望んでいるか何分からない。
そんな相手に自分の想った事をするという概念は持っていない。
そんなに勇気のある男じゃない。
「帰ろっか?」
彼女は小首をかしげながら僕に聞いた。
「そうだね・・・」
「玲・・・ごめん」
「なにが?」
「色々と。私頑張ります。弱気になってる場合じゃないんだよ。自分で決めた道なんだから」
「うん。あと、その決意をしたなら呼び方も変えた方がいいね」
「へ?なんの?」
「玲と奈々。一般の男女の生徒が名前で呼び合ってたら・・・変だろ?」
それは幼馴染であるという一種の証だった。
数少ない・・・証。
「そう・・・だよね。変な噂たったら支障が出る・・・」
「でしょ?」
「わかった」
そう言って彼女は一度俯いて。顔を上げた。
そして、ニコッと笑って
「色々とありがと。『雨宮君』」
ズキン・・・。
自分から言い出したことなのに。
すごく嫌な気持ちになった。
・・・そうなることぐらい分かっていたけど。
これは彼女のためを思って・・・と同時に払拭するためのものだった。
彼女は今もしかしたら・・・。
そんな甘い考えを。
好きな人は遠く、違う世界にいる人なんだ。
僕らはただの幼馴染に過ぎないんだ・・・。
そう自分に言い聞かせた。
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