「失礼しました」
僕は職員室を出て、下駄箱に向かう。
職員室は一階にあり、下駄箱も一階。
移動は楽だ。
僕はゆっくりと歩きながら窓の外の景色を見た。
さっきまで綺麗だった黄土色の景色は徐々に薄れ、暗くなっていた。
「今何時だよ・・・」
もうけっこう遅いんじゃないか?
そんなことを思いながら右ポケットにあるケイタイを手に・・・。
「あれ・・・?」
そんな呟きと共に僕の足が止まった。
ポケットに入った手は何度も空回りする。
いつもそこにあるはずの四角い例のモノは、なぜかそこに入っていなかった。
「やば・・・」
オタオタしだす自分。
いや・・・待て。
落ちつけ・・・自分。
僕は大きくため息をついて、冷静さを取り戻す。
そして今日一日の記憶を巡らせる。
まずは、最後にケイタイを使ったのはいつだろうか?
今日の自分の行動を思い起こして映像化し、早送りで再生する。
そうすると次第に色々と情報が頭を駆け巡って・・・。
「あ・・・」
思い出した。
最後に使ったのは昼休み。
そして、どこに置いたのか。
たしか机の中。それも一番奥のところ。
たくさんメールが来てて、返すのが面倒になって電源を切って・・・。
記憶がどんどんよみがえっていく。
「取りに行かないと・・・」
僕は上らなくていいはずだった階段を上り始める。
早く帰りたい、そう思っている自分の足は自然と速くなっていた。
教室のドア開けて中に入る。
「え・・・」
驚きで思わず僕の足が止まった。
誰もいないと思っていたその教室には1人の生徒がいた。
まず、それだけで驚きだった。
普通なら確実に帰っている時間だから。
けど、驚いたのはそこだけじゃなかった。
「奈々・・・?」
そこにいたのは僕の想い人であり・・・遠くに行ってしまった人だったんだ。
その想い人はカバンに荷物を詰めていた途中だった。
「え?」
彼女は僕の声に反応してこっちを向いた。
「玲・・・?」
久しぶりに聞いた。彼女の口から僕の名前を。
「何してるの?こんな時間に」
僕は聞いた。
「見ての通り帰り支度だよ」
堂々と言った彼女のセリフに僕は苦笑気味に「遅すぎじゃない?」
そう返した。
「私の中ではこれがスタンダードですけど」
「うそつけ。大方カバン持っていかないで帰っただろ?」
なんて。適当なことを言ってみたが、これが意外にも・・・
「う・・・」
彼女は顔を赤くして僕から視線を逸らした。
「図星ですか?」
「ご名答・・・」
「生粋の天然だね」
「すいませんね」
睨みつけてくる彼女の目は濁りがなく、澄んでいた。
心とか感情とか。
すべてが見透かされてしまうそうなぐらいに。
だから、逆に言うと穏やかに見えてしまうので睨みつけられても怖さなんて感じない。
それさえも可愛らしく見えてしまうんだ。
「今日はずっと学校にいたんだね」
「人をさぼり魔のように言わないでくれますか?」
彼女は机の方に視線を落としてカバンに教材を詰め込んでいく。
「そうじゃなくて・・・忙しいんだろ?」
「モデルの話?」
「そう」
「忙しいよ。毎日大変です」
「大変・・・か。やってて楽しい?」
「う~ん・・・」
彼女は再度、手を止めて首をかしげながら僕を見て。
困り顔を浮かべながら
「わかんないや」
そう言った。
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