知ってる人・・・。
そりゃ知ってるだろう。
夏帆がもしちゃんと記憶をすべて取り戻しているなら。
でも、これは言ってはいけない。
なんで?
そんなのは簡単だ。
今以上に夏帆が夏帆が傷つく。
いや・・・それだけじゃない。
これを言って誰もいい思いをしない。
そして嫌な思いをする人だけが増える。
そんなことを、言う必要がある?
ない。絶対に。
だから僕は・・・
「言ったじゃん・・・知らない人だって・・・」
「・・・。そっか・・・」
そう言った由美は僕の隣に並んで手を握った。
「なっ・・・」
僕は驚いて夏帆を見る。
夏帆は平然とした表情。
「どうしたの?」
夏帆はからかうような笑顔で僕を見る。
「どうしたのじゃないよ・・・。手、つなぐなよ」
僕はその手を離そうとするが、夏帆が力いっぱい握っていたので離せない。
「昔はいつもこうやって手をつないでたじゃん」
少し寂しそうな表情に夏帆は変わった。
「でも・・・今はもうダメ!?君の温もり感じてちゃいけないのかな・・・?」
「夏帆・・・」
お願いだからそんな表情をしないでくれ。
「さっきは、君を今の彼女から奪い取るって言った。けど、そんなの無理だってことぐらい分かってる。だから・・・今だけ・・・記憶が戻った今だけ・・・君のそばでこうやってぬくもりを感じてちゃだめ・・・?」
泣きそうな夏帆の表情。
そして、夏帆は僕に抱きついてきた。
ここで、僕に夏帆を突き放す勇気がある?
あはは・・・。
僕は自分に苦笑した。
無理だ。
絶対無理だ。
だって・・・僕が好きなのは・・・夏帆なんだから・・・。
僕は、涙を流した夏帆を包み込むように優しく抱きしめた。
けど、由美は裏切らない。
僕の決心は揺るがない。
抱きしめるのはこの一回だけ・・・。