「なんですか・・・?」
僕はなんとか振り返り、他人行儀のようにそう答えた。
「えと・・・今日転校してきた人ですよね?私と同じクラスの・・・」
「そうです。あなたと同じ三組ですよ。佐伯さん・・・」
僕は初対面なら知るはずのないその名前を言った。
「え・・・?私の名前知ってるんですか?」
意外そうな顔で夏帆は僕を見る。
そりゃそうだ。
まだ、会って一日。
そんな中で、クラスのそこまで目立たない一生徒の名前を知っているんだから。
「うん。知ってますよ。逆に僕の名前わかりますか?」
「えっと・・・杉原・・・裕樹君・・・でしたよね?」
自信なさそうに彼女は答える。
「正解です・・・」
僕はそう言って歩き出す。
「あ、ちょっと待って・・・」
夏帆は僕の隣に並ぶ。
「え・・・?」
何故隣に並ぶ・・・?
僕の心の叫びが分かったかのように彼女は
「家どこら辺なのかとか聞きたいこと色々あるから・・・」
「初めて会う人には興味津々ですか?」
僕は皮肉を言う。
相手に分かるはずもない皮肉を・・・。
「そうですね。初めて会う人には興味があります。同じクラスですしね。それに・・・」
下を向いて話していた夏帆が僕の方を見る。
「初めてな気がしないんですよ!!」
彼女はそう言って笑顔になる。
けど、その笑顔にすごく嫌悪感を感じた。
「いや・・・初めて・・・だよ?」
僕は嘘をつく。
「ん~・・・なんでだろう?」
そう言って彼女は考え込む。
「どこかですれ違っただけとかじゃないの?」
素っ気なく言う。
「違うんだよきっと・・・。もしかしたら・・・昔・・・」
「え・・・?」
「う、ううん。なんでもない」
彼女は焦りながら手を振る。
・・・どうやら記憶喪失は隠していることらしい。
だったら、なんで楓は知ってたんだか・・・。
「あ、あのさ!!」
突然、夏帆が顔を赤らめて言った。
「え?何?」
僕は少しうろたえる。
「君にはすごく近親感を感じるんだ・・・。だからさ・・・」
「・・・」
「あんま深い意味はなくさ、君のこと裕樹君って呼んでいい?」
「・・・っ」
夏帆のその言葉が・・・昔の「夏帆」の言葉に重なった。
表情も・・・仕草も・・・すべて・・・。
「・・・ごめん、先帰る・・・」
僕はそう言って、小走りで彼女が見えなくなるまで走った。
そして、路地裏で立ち止まる。
息切れがひどくなり、壁に手をつき下を向いた。
「これじゃあ・・・忘れられないよな・・・」
僕は力なくそう消えるような声で呟いた。