「じゃあ、ここに来た理由でも話そうか・・・」
真美が僕の方を見る。
「ここに来た理由はさ・・・」
真美は歩きだして、建物ぎりぎりのところまで
行って、てすりを乗り越えそこに立つ。
足場はほとんどない。
真美はそこから、反転して僕の方を向いた。
そして笑顔で、
「ここで死ぬためだよ」
そう言った。
少しでも、後ろに体を反らせば、一歩でも
足を動かせば、12階という間違いなく死んでしまう
高さから落ちるだろう。
「真美・・・。なんで今死のうとするんだ・・・?まだ、生きられるのに・・・」
「拓也には分からないだろうね・・・。がんになった人の苦しみが。もう死ぬって分かってて、あんな苦しい思いはしたくない。今までは、まだ生きられるかもってそんな励みがあったからまだ耐えられた!!けど・・・余命を知ってしまった今は・・・もう耐えられない・・・」
真美の目からは涙がこぼれ落ちる。
「真美・・・」
「だったら!!だったらもう死んでしまえばいい。さっき河川敷で言ったよね・・・。もう最後のキスだって・・・。病院に戻ればまた君とキスできるかもしれない・・・。けど・・・ごめん。今の私はもうキスだけじゃがんの辛さには耐えきれない・・・」
「・・・っ」
僕は何も言えない。
言えるはずがないんだ・・・。
僕には真美の辛さが分からないのだから・・・。
「でも・・・」
真美は涙を流しながら笑顔を見せた。
「今日は本当に楽しかったよ。『拓也お兄ちゃん』とのデート。何度も触れあって、何度もキスをして、そして・・・一つになって・・・今までありがとう・・・」
真美はそう言って、僕に背を向けた。
「真美!!やめろ!!」
真美には僕の声が届かない。
そして・・・真美は踏み場のない一歩先に足を踏み出した。