「あのさぁ・・・聞いてる?」
学校の帰り道、不機嫌そうな顔で、
香織が僕に言う。
初めての恋人としての下校。
けど、僕が香織の話題を『うん』だけで
終らせていたから怒っているのだろう。
「ああ、ごめん。何?」
「せっかく、一緒に帰るのに・・・」
香織がぶつくさ文句を言う。
「ごめんって。聞いてる?」
「聞かな~い」
そう言って、香織は僕と逆の方を向く。
どうやら拗ねてしまったらしい。
「ごめんごめん。じゃあ、ひとつ言うこと聞くから」
僕がそう言うと、香織は
「本当!?」
と言って笑顔になった。
「何がいい?」
「う~ん・・・」
香織の真剣に悩む姿がとても可愛らしい。
「じゃあさ、目閉じてくれない?」
香織が変な注文をする。
「ん・・・。分かった」
僕は素直に従い、目を閉じる。
漆黒の世界が広がって、光が全く見えない。
香織は何をしようとしているのだろうか・・・?
「ちゃんと目閉じてる~?」
香織の声が聞こえる。
「おう」
僕は見えない相手に応答する。
その時、僕の唇にもう一つの唇が重なる。
驚いて僕は目を開けた。
その相手はもちろん香織。
香織が僕の背中に手を回す。
僕も香織の背中に手を回した。
幸い周りには誰もいない。
半目で僕は確認した。
その時、ここが『あの』場所だと気づく。
その瞬間、反射的に僕は香織から離れた。