「拓也君に・・・初恋の人なんていない」
真美が小さな声で、しかしはっきりとそう言った。
「それ・・・どういう意味?」
「言った通りだよ」
彼女の言葉で僕は焦りを感じる。
「そんなこと・・・僕はその記憶を覚えてる」
「・・・たとえば?」
「昔・・・『私のお嫁さんにしてくれる?』ってその女の子に言われた。その記憶だけは覚えてる」
僕の口調は少し荒くなっていた。
「やっぱり・・・。それをだれに言われたか覚えてないの?」
「ああ・・・」
「それを言ったのは私だよ」
少し言葉が冷たく感じる。
「じゃあ、君がやっぱり初恋の人なんじゃ・・・」
「・・・違うよ・・・。私は確かにその時好きな人に言った」
真美は僕の目を見て
「けど、それと同時に血の繋がった兄だった・・・」
「え・・・」
僕は言葉を失う。
真美が妹?
それに、僕に初恋の人はいない・・・?
「拓也君が初恋の相手だったと思っているのは私。多分記憶が混じゃったんだよ・・・私が『お嫁さんにしてくれる?』って聞いたから。そこから先入観で好きな人だと勘違いした・・・」
「・・・じゃあ、真美は兄妹だと分かって僕と付き合ってたの?」
「そうだよ。妹の名前も忘れた兄と・・・」
彼女はそう言って苦笑する。
「ごめん・・・。けど・・・なんで?兄とわかって付き合ってたの?」
「助けてもらったときは気づかなかった。けど、拓也っていう名前を聞いて、まさかとは思って住所を探して家まで行った。そしたら・・・分かったんだよ。あの頃はまだ自分の家の住所なんて知らなかったけど、形と雰囲気ぐらいは覚えてる。その時、こんな偶然もあるんだなぁって思った」
そう言って彼女は微笑する。
「けど・・・分かったならなんで・・・?」
「どんどん好きになっちゃったんだよ・・・。君が。最初に助けてもらった時の一目惚れ。河川敷でのキス。あと他愛のない話とかで!!兄と気づいた時にはもう遅かった!!君が好きで好きで・・・。もう抑えられなくて・・・。だから・・・真実を隠そうとした。君と恋人でいるために・・・」
微笑していた顔が崩れ、彼女は膝をつき、泣きだした。
「真美・・・」
「いつかはばれるとは思ってた!!その時までにはこの恋心を消そうと思ってた!!けど・・・こんな早くだとは思ってなかった・・・。まだ、君への気持ちが消せない!!」
「・・・じゃあ、なんで水族館にしたの?一番記憶に残る場所なのに・・・」
「だからだよ・・・。初デートは・・・危険と分かってもここにきたかった。君との思い出の場所に・・・」
彼女がそう言って、水槽を眺めた時、僕の中で埋もれていた記憶が・・・
鮮明に蘇る・・・