心臓の高鳴りが止まらない。止まるはずがない。
なんていったって、可愛い女の子が隣にいて、なおかつ相合傘をしているのだから。
学校までのこの十分間、今までのなかで一番楽しい十分間になるかもしれない。
なんてこと考えている自分はどうなんだ・・・?
きっと彼女はそんなこと考えていないだろう。
僕が傘を取った後、少し無言になる。
この無言が余計に緊張する。僕は横目で彼女を見た。
すごく整った顔立ち。けど、なにか違和感を感じる。
なんだろう?・・・あっ・・・
思い出した。
そう、電車の中で感じた、どこかで見たことがあるとは少し違う。
初恋の人に似てるってだけだ。
特に接点があるわけじゃない。
そして、それは幼稚園の頃。
そのころの面影が一瞬彼女に重なっただけ。
それに、好きになった理由も覚えてない。
そのころは、親の離婚騒動があったから。
理由は父さんの浮気と酒。
母さんはそれに見かねて、妹を連れて家を出て、実家に帰った。
けど、僕は連れて行かなかった。面倒をみるのが大変だったのかもしれない。
そのころの記憶はほとんど覚えていない。
小さいころの僕には、このめまぐるしく変わる変化についていけなかったから。
だから、この話もすべて本当とは限らない。父から聞いた話なのだから。
あの頃の記憶で覚えてることは二つ。
「将来お嫁さんにしてくれる?」
と初恋の女の子が言ったこと。
確かこのとき僕は「うん」と言ったのを覚えてる。
もうひとつはうっすら覚えている彼女の顔・・・ぐらい。
名前も覚えていない。
現に、妹の名前すらもう覚えていないのだから。
父さんにきいたら「もう昔のことだ。会うこともないし忘れろ」と言われた。
けど、今の父は浮気したり、酒を大量に飲んだりはしない。
僕には昔の父が想像できない。
今はとても優しくて、息子想い。
家事はなれてないものの、僕が小学校にいたころよりは上達してる。
ここに、妹と母さんがいたらどんなに幸せだろうか・・・。
そして、初恋の彼女が・・・。
「あの・・・聞いてます?」
彼女の声で僕は我に返る。
「あ・・・ごめん、考え事してた。何?」
「何年生ですか?」
「二年だけど」
「同じなんだ!!よろしく」
彼女は手を叩いて喜んだ。
「うん・・?」
「何組?」
彼女の質問攻めにあう。
「二組だよ」
「同じクラス!!わあ、なんか運命感じますね!!」
「え・・・?転校生?」
今、その事実に僕は気づく。
てっきり、ほかのクラスの知らない女子かと思った。
「あ、ほかのクラスにいた影薄い女子だと思ってました?女子の顔ぐらい覚えてないと。嫌われますよ?」
意地悪そうに彼女は言った。
この時の彼女の表情に一瞬、ドキッとした。
変わってる・・・。僕は苦笑した。
「そうだね。まあ、今後よろしく」
「はい。あの・・・名前教えてください」
彼女の顔が少し紅潮していた。
「須藤拓也。君は?」
「川島真美です。よろしく拓也君?」
名前で呼ばれて心臓が高鳴る。
「うん。よろしく真美」
僕がそういうと彼女が嬉しそうに「はい!」と言った。
その彼女の笑顔にいとおしさを感じた。