「ありがとう・・・ございます」
駅のホームで彼女がうつむき加減で言った。
「どういたいまして」
僕はそう言って改札を通る。なるべく彼女を見ないように・・・。
まだ心臓の鼓動が高鳴ったままだ。
全神経が右の二の腕に集中されている。
彼女とオヤジの間に入った時、彼女の背中に二の腕があたったまま、数分間キープしていたから・・・。
所詮背中だけど・・・!!!
てか、考え方が痴漢とかわらない・・・。思わず苦笑。
僕は後ろを歩く彼女を見ないように歩く。
駅の構内。人ごみをかき分けながら進む。
「あの」
彼女が僕に声をかけてくる。
「何?」
前を見たまま僕は言う。
「怒ってる・・・の?」
表情を見なくても分かる。きっと不安そうな顔をしてる。
「怒る理由がないだろ」
「じゃあ、止まって」
彼女が僕の制服の袖を引っ張った。
僕は立ち止まり、思わず彼女の方を向いた。
「ごめん・・・。袖引っ張って・・・」
彼女が謝って手を離す。
仕事や学校に向かうため駅の構内を歩いてる人たちが少しの間だけ僕たちの方を見てるのが分かる。
・・・視線が痛い・・・。
「ありがとう」
彼女はそう言って頭を下げる。
「お礼言われるためやったわけじゃないよ」
クールを気取る。嫌な人に見せるように心がける。
僕は歩きだす。彼女は「ちょっと待って!」
そう言って、僕の隣に並んだ。
傍から見れば、恋人で仲良く登校中に見えるだろう。
駅の出入り口にくる。
外は小降りの雨が降っていた。
傘・・・。あれ?
右手に持っていた傘がない。
立ち止まり、記憶を思い返す。
朝は間違いなくさしてきた。じゃなかったら濡れてる。ということは・・・電車の中・・・!!
記憶が鮮明となって思い返される。
そうだ・・・。彼女を助けるときに元いた場所に置いてきたんだった・・・。
どうしよう・・・?学校まで十分。う~ん・・・。
「どうしたの?」
彼女が立ち止まって考え事をしている僕を見て不思議そうに声をかけてきた。
「なんでもない」
そう言って目をそむけ、雨の中を歩きだす。
「傘・・・ないの?」
「うん」
あなたのおかげで・・・。言葉にだすのはやめておいた。
その時、彼女の肩が僕の肩に当たった。
僕は驚いて右隣を見る。
彼女が折り畳み傘を開いて僕の方に傾ける。
「折り畳みの傘に二人で入るのは無理だろ・・・」
相変わらず素直じゃない・・・。本当は嬉しいくせに。もう一人の自分に嫌味を言った。
「じゃあ、もっと近づく?」
いたずらっぽい笑顔で彼女が言った。
「それはちょっと・・・。あ、傘持つよ」
「いいよ」と言った彼女の手から強引に傘をとる。
理由は簡単。彼女の外側の肩が濡れていたから・・・。
今度は逆に、彼女の方に傘を傾ける。