■脱衣所や浴室を暖めると効果的
寒さがまだまだ厳しい季節。家に帰ったら、まず熱い風呂に入りたいという人は多いだろう。
しかし、温度差が激しいこの季節は一歩間違えれば、
血圧が急変動して体に負担をかける危険性が高い。
安全に入浴を楽しむためには、どんな点に気をつければいいのか、専門家に聞いた。(森本昌彦)
◆帰宅後すぐは「×」
平成19年の人口動態統計年報によると、
家庭内での不慮の事故で亡くなった1万2415人のうち、
水死は3割近い3566人。
このうちのほとんどは浴槽内での事故だ。
特に冬場の入浴は注意が必要だ。
入浴中の急死者数(東京23区)と気温の関係について、東京ガス都市生活研究所がまとめたところ、
死亡者数が100人以上となるのは12~3月。
4月以降は2けたに減り、
8月には12月の10分の1以下にまで減少する。
寒い時期に入浴中の死亡事故が増えるのは、
急激な温度変化と水圧変化により、血圧が急変動するためだ。
日本赤十字社医療センターのリウマチセンター長で、有限責任中間法人「日本温泉気候物理医学会」の猪熊茂子理事長はこう説明する。
「脱衣所が寒いと、服を脱いだときに血管が締まり、血圧が上がる。
それが、風呂に入って温かくなると、逆に血管が広がる。
その後、風呂からあがると水圧もなくなるため、血圧が下がる。
つまり、血圧の振幅が激しくなって体への負担が増すわけです」
急に血圧が上がれば脳出血で死亡する恐れもあるし、
逆に急激な血圧低下が起こると、
脳貧血を起こし浴室で滑っておぼれたり、けがをしたりする危険性もある。
猪熊理事長は
「寒い外から帰ってきて、いきなり熱い風呂に入るのは危険だ」
と訴える。
◆室温差をなくす
同学会は入浴の際に心がけておきたいポイントを7カ条としてまとめている。
このうち、寒い時期に最も気をつけたいのは、
脱衣所、浴室などを暖め、居間との室温差をなくすという点。
対策として、ガス会社やガス器具メーカーが推奨しているのが、
浴室暖房乾燥機の設置だ。
脱衣所や洗い場を暖かくすることで、
入浴時との温度差を減らし、体への負担を和らげることができる。
東京ガス都市生活研究所の主幹研究員、興梠(こおろき)真紀さん(39)は
「水を使うところなので、安全のため専用の機械を薦めます」と話す。
ただ、この不況で購入をためらう人もいるだろう。
浴室暖房乾燥機を導入する以外に方法はないのか。
ノーリツの広報・IR室、松田みすずさん(33)は
「入浴前にシャワーを出しておいて、浴室内を暖めておく方法があります」。
東京ガスの興梠さんも、給湯時に途中からシャワーを使って湯をためる方法を紹介し、
「シャワーを止めると浴室の温度が下がってくるので、
ためた後はすぐに浴室に入ってください」
と助言する。
◆死因解明の動きも
事故を防ぐため、入浴時に死亡した人の死因を解明しようとする動きもある。
日本温泉気候物理医学会と日本法医学会は20年12月、死因解明のための解剖、画像診断などがほとんど行われていないとして、積極的に解剖などを進めるよう求める声明を発表、厚生労働省などに提出した。
日本温泉気候物理医学会の猪熊理事長は
「例えば転倒をきっかけとした事故が一番多いと分かれば、浴室を滑らないようにする。
脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞が多ければ、特段の注意を呼びかけるなど対策を立てることができる。
安全な入浴のため、死因解明を積極的に進めるべきだ」と話している。