シチリア・マフィアの実話による作品で、巨匠81歳マルコ・ベロッキオ監督の偉業という評価です。映画評論は、主人公の人間性の変遷を追った文が多いですが、日本人としての私は、イタリアの自由さとハチャメチャさ加減に、驚愕の思いで、楽しめました。
シチリア・マフィアの世界は、3大ファミリーの共存で生きてきましたが、巨額の利益を生むヘロインの取り扱いを巡って、血で血を洗う抗争関係に突入します。主人公のファミリーは、“ゴッドファーザー”で有名なコルレオーネ家と敵対関係となり、ブラジルに去った際にイタリアに残した息子たちが、次々に惨殺されてしまいます。逮捕され本国に強制送還後、マフィア壊滅の最前線に立つファルコ―ネ判事の説得で、家族を守るため証言台に立つ決心に至ります。きわめて報復リスクの高い、裏切り=賭けに出た訳です。
彼の証言によりマフィアのボスたちが363人逮捕され、いよいよ裁判となりますが、裁判所の造り自体が圧巻です。まるでオペラ劇場のような壮大な法廷で、同じフロアの鉄格子の中に、沢山の逮捕者が収監されており、大声でヤジを飛ばします。二階が傍聴席です。証言台は防弾ガラスで囲まれ、すぐ隣に大物ボスの被告人が立って、主人公と言い争うという構図です。全員が有罪となり、無期懲役~10年・15年の判決を受けることになります。
ここでのキーワードは、“改悛者”です。主人公は、自分こそが正統なコーザ・ノストラの道を歩んでおり、決して改悛者ではない。他のファミリーのボス達こそが、コーザ・ノストラの道を踏み外した改悛者だ!と主張するのです。日本流に言えば、義理人情を重んじ、決して堅気には迷惑をかけない昔気質の博徒が、正統なコーザ・ノストラでしょうか。
主人公が若くて暴れ回っていたころに収監された刑務所も、驚きです。体育館のような広い部屋に数十のベッドが並びますが、彼が“出前”で呼ぶ高級娼婦が現れると、他の受刑者たちが一斉に廊下に出て、コトが終わるまで立ちん坊で待たされます。相当な賄賂が看守に払われているんでしょうね。
彼が家族と共に米国内で保護され、快適な市民生活をしながら移動している最中に、マスコミで国民的英雄となっていたファルコ―ネ判事が、家族ともども車ごと爆破されます。何と、走行中の高速道路の橋ごと吹っ飛ばされるのです。これは全くの実話で、日本では判事でなく検事で報道されたのを、記憶しています。恐らく予審判事(検事兼判事、戦前の日本にもあった司法制度)かと思われます。政界トップまで関与していなくては、実現できない犯罪行為ですね。
主人公はかねがね、「自分はベッドの上で死にたい。」と美人妻に語っていましたが、これは皮肉にも実現されます。さしずめ日本なら、「畳の上で死ねた」訳です。