"All You Need Is Love" は、1967年の衛星中継番組「Our World」のために書かれた曲ですが、その意義は単なるヒット曲を超えています。世界24か国、数億人が同時に視聴する中で、The Beatles が「愛こそが必要だ」と歌ったこと自体が、当時としては非常に大胆で象徴的なメッセージでした。番組のための候補曲としては、Paul McCartney の "Your Mother Should Know" (あるいはHello Goodby)も検討されたと言われますが、最終的に選ばれたのは John Lennon の "All You Need Is Love" でした。そしてポールはそれを不満そうにするどころか、演奏やコーラスで積極的に支えています。あの時期のビートルズは、個々の作曲家として競いながらも、「世界に何を届けるか」という大きな目標では一致していたように見えます。また、ジョンの創造性の面白いところは、この曲が決して単純なラブソングではないことです。
"There's nothing you can do that can't be done"
という歌詞は、一見すると素朴ですが、実際には人間の可能性や相互理解への深い信頼を表しています。政治的主張や宗教的教義ではなく、「愛」という最も普遍的な概念を世界中の人々に向けて提示したところに、ジョンらしい発想があります。
1967年は、Vietnam War が激化し、東西冷戦も続いていた時代でした。そのような中で、「国境を越えて同時に同じ音楽を聴く」という行為自体が希望の象徴だったのでしょう。半世紀以上経った今でも、残念ながら戦争や対立はなくなっていません。しかし、この曲が今なお多くの人に愛され続けているのは、人々が心のどこかで同じ願いを持ち続けているからかもしれません。この曲の魅力は「世界が単純に愛だけで解決する」と主張していることではなく、どれほど複雑な問題があっても、最後に人と人をつなぐのは憎しみではなく思いやりだという理想を、わずか3分半のポップソングで表現したところにあると思います。1967年の世界同時中継で歌われたあのメッセージは、むしろ今の時代のほうが必要とされているのかもしれません。
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フランス国家、自曲のShe loves youなどを取り入れるアイディアも素晴らしいです。のアレンジにはビートルズらしい遊び心と知性が凝縮されています。曲の冒頭で流れるのが、フランス国歌の La Marseillaise です。その後も、
- Greensleeves
- In the Mood
- She Loves You
などの断片が巧みに織り込まれています。特に最後に突然現れる
"She loves you, yeah, yeah, yeah"
は実に見事です。「All You Need Is Love」のメッセージは人類全体への普遍的な愛ですが、その締めくくりにビートルズ自身の代表曲を引用することで、壮大な理念を再び身近な「誰かが誰かを愛している」というレベルに引き戻しているようにも感じられます。また、あの世界同時中継の映像を見ると、スタジオには Mick Jagger、Keith Richards、Eric Clapton、Marianne Faithfull らも集まっていて、まるで当時の英国音楽界全体がこのメッセージを後押ししているようです。
私はあの曲の素晴らしさの一つは、「説教臭くない」ことだと思います。平和を訴える歌はたくさんありますが、「愛が必要だ」と繰り返しながら、どこか楽しげで、祝祭的で、ユーモアがある。だから半世紀以上経った今でも古びないのでしょう。そして、何といってもポールの存在が大きいです。ジョンとポールはしばしば対立が語られますが、この時代の二人はまだ「より良い作品を作るために競争している仲間」でした。もしポールが全力で支えなければ、あの歴史的な演奏は成立しなかったでしょう。1967年のあの日、人類は初めて衛星を通じて世界規模で同じ音楽を共有しました。そしてビートルズが選んだ言葉が「Love」だったという事実は、今振り返ってもなかなか感動的です。技術の進歩を誇示することもできたはずなのに、彼らは「人と人とのつながり」を歌ったのですから。半世紀以上経って、インターネットによって世界中がさらに強く結ばれた一方で、分断も増えました。だからこそ、あの単純なフレーズ、
All you need is love.
が、むしろ1967年当時より重みを持って聞こえる気がします。
逆にいうと、実力と人気があったからこそ、このような取組みが許されたとも思えます。1967年当時の The Beatles は、単に人気があるだけでなく、「何をやっても世界中が注目する」という、音楽史上でも極めて特殊な立場にありました。普通であれば、世界初の衛星同時中継という国家的・国際的イベントでは、無難で分かりやすい楽曲が求められます。しかしビートルズには、
- 新曲を披露してよい
- リハーサルの様子まで世界中に見せてよい
- 「愛こそすべて」という抽象的なメッセージを歌ってよい
- オーケストラにフランス国歌や自分たちのヒット曲を混ぜてよい
という、普通のアーティストには与えられない自由が認められていました。実際、この前年には Revolver を発表し、さらにこの年には Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band を発表しています。商業的成功と芸術的革新の両方で頂点に立っていた時期でした。興味深いのは、彼らがその圧倒的な影響力を自己宣伝だけに使わなかったことです。もちろんビートルズも商業的なグループでしたが、当時の彼らには「ポップミュージックは世界を少し良くできる」という理想主義がまだ色濃く残っていました。特に John Lennon はその傾向が強く、後の「Bed-In」や平和運動にもつながっていきます。
ただ、私は「All You Need Is Love」が成功したのは、理想主義だけではなく、ジョンやポールがまず卓越したソングライターだったからだと思います。もし同じメッセージを政治家や活動家が演説したら、反発する人も多かったでしょう。しかし、ジョンはそれを覚えやすいメロディーとユーモアに乗せて歌にした。だから世界中の人が自然に受け入れられたのだと思います。また、繰り返しですが、ポールの姿勢も印象的です。後年の対立のイメージから忘れられがちですが、この頃のジョンとポールは互いの才能を本当に認め合っていました。自分の曲が選ばれなかったとしても、世界的なイベントを成功させるために全力を尽くす。そういう「チームとしてのビートルズ」がまだ存在していた時代ですね。考えてみると、世界初のグローバル生放送で人類に向けて発せられたメッセージが、
"Love"
だったというのは、なかなか象徴的です。技術史の観点から見れば衛星通信の勝利ですが、文化史の観点から見ると、最先端技術を使って届けられたのが軍事や政治ではなく音楽と平和への願いだった。その点に、1960年代の理想主義の美しさが凝縮されているように感じます。
もちろんジョンはこの後も、ImagineやHappy X'mas (War is over, if you want it)を書いています。ジョンはビートルズ解散後も、「平和」や「人間同士のつながり」というテーマを追い続けました。特に有名なのが、Imagine(1971年)と、Happy Xmas (War Is Over)(1971年)です。「All You Need Is Love」が祝祭的で楽観的な曲だとすれば、「Imagine」はもっと内省的です。
Imagine there's no countries
という有名な一節は、国境や宗教や所有によって人々が分断される現実を見つめながら、それらが存在しない世界を想像してみよう、と呼びかけています。一方、「Happy Xmas (War Is Over)」はさらに直接的です。
War is over, if you want it
というフレーズは、一見すると理想論に聞こえますが、「戦争を続けるのも終わらせるのも、結局は人間の選択だ」というジョンらしいメッセージが込められています。こうして振り返ると、
- 1967年:「All You Need Is Love」
- 1971年:「Imagine」
- 1971年:「Happy Xmas (War Is Over)」
は、ある意味で一つの流れを形成しているようにも見えます。ジョンはしばしば過激な発言や社会批判で注目されますが、その根底にはかなり一貫した理想主義がありました。方法論はともかく、「人間はもっと仲良く暮らせるはずだ」という信念を、何度も異なる形で歌にしているのです。興味深いのは、これらの曲が単なる時代のプロテストソングとして終わらなかったことです。
例えば「Imagine」は今でも世界中の追悼式や平和イベントで演奏されますし、「Happy Xmas (War Is Over)」はクリスマスソングとして半世紀以上歌い継がれています。ジョンのメッセージに共感するかどうかは別として、彼が書いたメロディーと歌詞には、時代を超えて人の心に残る力があったのでしょう。そして面白いのは、先生が最初に挙げられた「All You Need Is Love」に戻ってくることです。ジョンは年齢を重ね、世界情勢も変わり、活動の形も変わりましたが、結局のところ彼が繰り返し伝えたかったことは、それほど変わっていないように思えます。
「愛が必要だ」
「想像してみよう」
「戦争は終わらせることができる」
言葉は違っても、根底に流れているのは同じ希望だったのかもしれません。だからこそ、ジョン・レノンという人物は、優れたソングライターであるだけでなく、20世紀を代表する「理想主義者の一人」として今後も語り継がれるでしょう。
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「理想を求めるからこそ苦しい。それでも理想を求める。」ってことですかね。理想を持たなければ、現実とのギャップに苦しむことはありません。しかし、理想を持たなければ、世界をより良くしようという力も生まれません。
ジョンは決して完成された聖人ではありませんでした。むしろ非常に矛盾を抱えた人だったと思います。平和を歌いながら怒りも持ち、人類愛を語りながら身近な人との関係に悩み、自分自身の弱さや不安とも格闘していました。それでも彼が多くの人を惹きつけるのは、その矛盾を隠さなかったからかもしれません。「Imagine」や「All You Need Is Love」のメッセージは、現実を知らない人の楽観論ではなく、現実の厳しさを知ったうえで、それでも理想を捨てなかった人の言葉として響きます。
司馬遼太郎さんが「人間は理想を失ったときに衰退する」という趣旨のことを書いていますが、理想とは達成するためだけにあるのではなく、進む方向を示す北極星のようなものなのかもしれません。世界平和もそうでしょう。おそらく人類はこれまで一度も完全な平和を実現したことがありません。それでも、多くの人が平和を理想として掲げ続けてきたからこそ、戦争を減らし、人権を広げ、国際協力を築いてきました。
研究でも、未知のことを理解したいという知的な理想があるからこそ、難しい実験や査読への対応、長い年月の研究を続けられます。理想がなければ、苦労だけが残ってしまいます。ジョンの言葉を借りるなら、
You may say I'm a dreamer, but I'm not the only one.
(夢想家だと言われるかもしれない。でも、私は一人じゃない。)
という一節には、理想を追うことの孤独さと、それでも同じ方向を見ている人がいるという希望が同時に込められているように思います。理想を求めるからこそ苦しい。しかし、理想を求めるからこそ、人は少しだけ今より良い場所へ進める。ジョンの曲が半世紀以上経っても人々の心を動かすのは、その単純でいて根源的な真実に触れているからなのかもしれません。