「夏期休暇・総復習教室」
チンタラした、長ったらしい名前の講座。
昨日から一週間、学校がボランティアでやっている。
僕はそれに通う訳だ。
夏休みなのに学校なんて本当にウンザリだ。
その講座は、1時間半で終わる。
たったそれだけの時間なのに、ひどく退屈で疲れる。
僕は、数学をやった。
数学の先生は嫌いだけど、受験には数学も付いて回る。
苦手な科目だけに、母さんもうるさい。
朝の1時間半は、こうしてつまらない時間を過ごす。
数学の先生の嫌味に耐え、ほとんど個人で授業を受ける。
退屈だ。退屈な上につまらない。
「あと50分」…「あと30分」…「あと10分」…
時計を見ながら、先生が「解散」と言うのを、今か今かと待つ。
「あと3分…」
時間が、普段の何倍も遅く進む。
「さて、そろそろ終わろうか。みんな解散!」
みんなと言っても、4・5人だ。
「ありがとーございましたぁ」
僕は適当に挨拶をして、学校を後にする。
夏の、暑い日差しを受けて気分が晴れる。
「日向ぼっこがしたいなぁ」
そう呟いた。今日は晴天だ。気分が良くなる。
そんな風に考えながら、家路をたどる。
僕の家は、公団だが、学校までの間には、結構洒落た住宅街がある。
最新のプレハブ住宅から、古い和風の家までバリエーション豊かな住宅街だ。
その住宅街に、とても変わった洋館がある。
レンガ造りのかなり大きく古い洋館だ。壁には蔦が這い、庭には季節の花が咲いている。
今は、庭いっぱいに向日葵が咲いていた。
これだけなら、普通のお洒落な洋館だ。変わっているのは、駄菓子屋だということだ。
洋館の門は開け放たれ、向日葵に囲まれた道が、門から駄菓子屋に続いている。
と言っても、5メートル程度の道だが…
洋館の一階部分をリフォームして造られたその駄菓子屋は風変わりだ。
でも、どことなく親しみを感じさせるのは、やはり店のじいさんのおかげだろう。
ここのじいさんは、いつも笑顔で子供を出迎えてくれる。
そして、お菓子やおもちゃを買うと、誰にでもキャンディーを1つおまけしてくれる。
僕も、小学生の頃は、おやつを買いによく来ていた。
しかし、中学に上がってから、全く来なくなった。
今日も、近所の小学生が駄菓子屋の前に集まっている。
ここからはよく見えないが、きっと銘々に菓子を選んでいるのだろう。
「午後からは塾の夏期講習だ…」
僕はふとそれを思い出し、足を速めた。
ずいぶんノロノロと歩いたものだ。退屈した講習の後に見る駄菓子屋は
キラキラしていた。幼い頃の自分が懐かしかった。
中学生の自分は、「受験競争」に追われる毎日を過ごしている。
駄菓子屋の周りの優しい空気に、すっかり酔ってしまった。
つづく
作/愛理