海軍の局地戦闘機「雷電」と陸軍の二式単座戦闘機「鍾馗」(キ44)は、主力戦闘機(零戦、一式戦)の後で開発され、大きなエンジンを積んで速度と上昇力を重視し、操縦に癖があって航続距離が短いなど共通点が多い機体です。今回はこの2機の比較です。


【火星26型&ハ109 諸元】

 エンジン  火星26型  ハ109

  排気量   42.1    37.5  (L)

   直径   1.34    1.26  (m)

 離昇馬力   1760   1500 (ps)

  回転数   2600   2650 (rpm)

  吸気圧   +450   +300 (mmHg)

 一速馬力   1590   1440 (ps)

  回転数   2500   2600 (rpm)

  吸気圧   +300   +200 (mmHg)

   高度   2500   2100 (m)

 二速馬力   1400   1220 (ps)

  回転数   2500   2600 (rpm)

  吸気圧   +300   +200 (mmHg)

   高度   6500   5200 (m)

  減速比   1:0.5   1:0.6875   


【雷電&キ44の諸元】

機種      雷電       キ44 

エンジン  火星26型   ハ109

全長       9.695     8.90   (m) 

全幅     10.80       9.45   (m)

主翼面積   20.00     15.00   (㎡)

全備重量    3482      2769   (kg)

プロペラ   3.30 x 4   3.05 x 3

武装     20mm x 4  12.7mm x 4 


 雷電とキ44は性格は似ていますが、プロペラ回転数は両極端と言って良いほど違います。雷電のプロペラ回転数は1250rpmでキ44は1788rpmなので、雷電の方はキ44の7割しかありません。

 プロペラの能力は『枚数 × 直径^5 × 回転数^3』に比例するので、雷電の直径3.3mの4枚プロペラは、キ44の直径3.05mの3枚プロペラに比べて3/4の能力しかありません。離昇馬力は雷電の方が2割大きいので、同じ馬力で比べたら雷電のプロペラはキ44のプロペラの2/3の能力しかない余裕の無いプロペラということになります。ただし余裕は無駄にも繋がるので、どちらが良いとは言い切れません。

 回転数が高いと当然プロペラ先端速度も速くなります。実際、キ44のプロペラ先端マッハ数は日本の戦闘機では一番高く、雷電のプロペラ先端マッハ数は直径が比較的大きいにも関わらず一番低いです。このことはプロペラ効率に大きく影響します。


図1(高度 - 速度)


図2(高度 - プロペラ効率、先端マッハ数)



図3(高度 - 馬力)



図4(高度 - 上昇率(m/s)、上昇時間(min))



 図2の二点鎖線は最高速度でのプロペラ先端マッハ数です。音速は気温の平方根に比例するので高度が高いほど遅くなります。だから高度が高いほどプロペラ先端マッハ数は大きくなるのですが、キ44のプロペラ先端は高度2300mで早くも音速を超えています。一方の雷電は降下加速をしない限りマッハ0.9も超えません。その結果は本来のプロペラ効率(破線)と実際のプロペラ効率(実線)の差に現れます。(※プロペラ効率とマッハ数による低下率は現実のものではなく推定値です。)

 低空〜中空では速度も上昇率もキ44の方が優れていますが、高度6200m〜6400mを境に逆転し、それより上空では雷電の方が有利になります。