零戦52型のエンジンは32型と同じ栄21型ですが、推力式排気管による余分な推力を計算に入れる必要があります。

 推力など出てないけど機体表面の空気の層を排気が吹き飛ばして空気抵抗が減るから速度が上がるという意見もありますが、推力も出てると思います。P-51のラジエターが推力を発生するという話は眉唾ですが、エンジンの排気はラジエターの排気とは桁違いのエネルギーを持っていますからね。まあ、どちらが正しいにしても排気による抵抗減少は計算出来ないので、推力増加として計算するしかないのですが。


 エンジンがエネルギーの1/3を排気で捨てていると考えると、1kgの排気ガスが持つエネルギーは約0.2MJになります。これを100%速度に変換すれば600m/s以上になるので、1kg/sの排気ガスで60kgfの推力が得られる計算です。

 排気ガスの流量=混合気の流量ですから回転数/60×(1+ブースト圧/760)×エンジンの排気量×(11/空燃比空気密度なので、栄21型の離昇馬力では2750/120×(1+300/760)×0.028×(1+15)×1.225 = 1.169kg/sとなります。離昇馬力は1130hpなので馬力当りの排気ガス流量は約0.001kg/hp-sとなり、馬力当り0.06kgの推力を出せる計算になります。この数字はブースト圧の高いエンジンほど大きいと考えられます。高ブーストのエンジンほど過給器に馬力を取られるためプロペラ軸から取り出せる馬力は減るから、相馬力当りの排気エネルギーが大きくなるからです。

 逆に最大速度を550km/hから20km/h速くするのに必要な推力を計算すると、プロペラ効率が80%の場合は馬力当たり0.043kgになります。だからエネルギー的には排気ガスで推力が発生していても不思議ではありません。

 


 馬力から速度を求めるには以下の手順を踏みます。


(1) 最初はCdiが未確定なのでCdの値をCd0としておきます。


(2) 排気推力を考慮しないでvを求めます。

v = (150gμHP / (ρsCd))^(1/3)


(3) CLを求めます。

CL = 2gM / (ρsv^2)


(4) CLが分かればCdを実際の値に近づけることが出来ます。

Cd = Cd0 + CL^2 / (πeAR)


(5) 排気推力分の馬力を加えてvを求めます。

  係数Kfe0.04(kgf/hp)としておきます。

v = (2gHP(75μ + Kfev) / (ρsCd))^(1/3)


 こうしてCdの値を変えながら(3)(5)を繰り返してvを正しい値に収束させます。



 米軍リポートでは零戦52型のエンジンは栄31型甲(Sakae 31 A)となっています。エンジンが栄21型でなければ零戦53型なので機体名かエンジン名のどちらかが間違っているのですが、エンジンには銘板が付いているはずなのでおそらくエンジンの方が正しいのでしょう。零戦52型と零戦53型の違いは搭載エンジンだけなので、外見から見分けるのは難しかったのかも知れません。

 とりあえず必要なのは静止時と全速時の全開高度だけなので無視して進めます。

 米軍リポートでは公称出力(Military)1080hp/9,300ft950hp/21,600ftです。全速時の全開高度は下のグラフから10,300ft23,200ftを読み取りました。


 停止状態と全速時の全開高度の差は305m(1000ft)490m(1600ft)です。零戦32型では365m400mだったのに比べると一速と二速の差が大きすぎる気がします。

 そこで投稿主は考えました「エンジンからして米軍リポートの52型は52型ではない、53型だ!これは見なかったことにしよう」

 52型で空気取入口が変わったという話も聞かないので全速時の全開高度は零戦32型の数字を使います。


 零戦32型と零戦52型の外見上の違いは、翼端を以前のように丸みのある形に削ったことと、20ミリ機銃の弾倉がドラム式から箱型弾倉になって主翼のバルジが無くなったことです。これは空力的には改善点です。


 以上を加味して最大速度565km/h(6000m)に合うように作ったのが下の表です。「速度」は馬力と空気密度からの概算値、「V」が計算値です。


表1


 空力的に改善されたはずなのにCd0が0.0218から0.0219に増えてしまいました。しかしこれは主翼面積が少し減ったのが原因かも知れません。32型が21.54×0.0218 = 0.4696で、 52型は21.30×0.0219 = 0.4665なので抵抗面積は僅かに減っています。

 Kfeの値が妥当かどうかという疑問もあります。Kfeを下げて排気推力を減らしてやればCd0は小さくなります。20km/hの速度増加分を15km/hの四捨五入だと拡大解釈すればKfeを0.03にしてCd0を0.0213に出来るのですから、ここらは投稿主の匙加減次第なところもあります。