前回と同じ栄エンジン12型と21型の高度別馬力表です。零戦21型と52型の速度も併せて載せています。全開高度以外の馬力と速度は推測値です。

表1


 零戦21型の最大速度は高度4700mで533km/hですが、上の表だと高度4200mの535km/hが最も速くなっています。

 高度4200mが馬力のピークなので当然そうなりますが、この違いは時速500km以上の風圧で吸気が圧縮されることが原因だと考えられます。ラムエア効果です。飛行中はラム圧の分だけ吸気圧が高くなるので全開高度でもまだスロットルを絞る必要があります。だから飛行中の全開高度はエンジンのスペックよりも高いのです。

 高度4200mと4700mの気圧差は29mmHgで、高度4700mを533km/hで飛んだときの動圧は62mmHgなので、零戦21型の場合は動圧の47%を吸気圧に加算出来ることになります。そのおかげで零戦21型が最大速度で飛べば高度4700mまでは+150mmHgの吸気圧を保てるということです。同じ吸気圧なら高度が高いほど気温が下がって空気密度が上がるので、高度4700mでは馬力が少し増えます。

 零戦52型では二速全開高度と最大速度の高度が一致していますが、空気取入口の違いでラムエア効果がないのか全開高度以上で計測してないのかは分かりません。


 栄12型の全開高度を4700mに修正したのが下の表です。4200mより上の高度では馬力が増えています。ただし空気の動圧は1/2×空気密度×速度^2なので、最大速度も空気密度も高度が上がるほど減少してラム圧も減って行くため、高度が上がるに連れて表1の馬力に近づきます。


表2(零戦21型の馬力は最大速度時のラム圧を考慮)


 高度4700mの馬力が889hpから962hpに8%増えても最大速度が533km/hで変わらないとすれば、空気抵抗のほうが8%大きくなければなりません。ですから馬力が変わらない高度4700m以下では最大速度が遅くなって、零戦21型から推定した零戦52型の最大速度(一番右の列)と零戦52型の最大速度(全開高度からの推定値)の差は2km/hに縮まっています。

 しかし零戦52型は排気推力による速度増加分があるので、本来なら21型からの推定速度より20km/hくらい速くなっているはずです。そうなっていないのは、翼面積を減らした分を上回るだけ別の部分で空気抵抗が増えているということでしょう。