今年も8月下旬に会計士試験が実施されていたが、今年ほど受験生諸君が困惑したことはなかったのではないか。いや、もちろん、多くの受験生はとにかく合格することのみ考えればいいのであり、他のことはあまり考えない(or 考えられない or 考えるべきではない)かもしれなかったが、それでも様々な環境変化が起こっていた。かいつまんで書くと、


・上場企業数の減少に歯止めがかからず、かつ監査報酬もジリ貧で、監査収入は右肩下がりに転じた
・大手監査法人のリストラ勃発(2010年秋に新日本、2011年夏にトーマツ、あずさ(一部))、その他昇進や昇給等条件悪化の噂多数
・IFRS導入時期の大幅延期、それに伴うコンサル業務の受注悪化
・結果として、合格者数の大幅な減少(金融庁見込み:1500~2000人 ※去年2000人)
・さらに、税理士法改正の動き(税理士試験を合格しないと税理士になれないという、いつもの話だが)


状況の理解はこんなところにしておいて、私が興味を持っているのは会計士試験に参入してくる受験生の質・規模・合格率・合格者の質、の変化についてである。

というのも、私のような2000年前半の旧制度合格者のみならず、最近の制度改正(改悪)によって、会計士試験の統計的意味合いをまったく理解できず苦しんでいる中堅会計士が多い。要は、合格率が意味不明なのである。多くの中堅会計士は「別にどうでもいい」とさえ思っているのだが、同じ職業として理解するのは重要である。


①導入
まずは下表をごらん頂きたい。新試験(07-11年)の短答及び論文の合格者・率を集計(一部推計)したものである。

考える、社会派会計士のブログ

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上表を作成した結果としてのネタ出しは、以下の項となる。

・短答試験
・新制度と旧制度の比較
・「ゆとり世代(と言われる)」07-08合格者
・最終合格率の推移と世代間比較


②短答試験について
5月下旬に発表された短答試験(2回目)合格率が約3%(500/15000)であったことから、とんでもなく合格率を絞っているかの議論も見受けられていた。法人内でも多少話題になったが、興味無い人が大半だった。しかし、冷静に率を厳密に算定してみると、ここ2年の短答合格率は10%程度で推移しており、前年に比して極端に絞っていない(1・2回試験の受験生を名寄せし合格者合計を除する)。2回目(春実施)は単に人数調整に過ぎず、1回目(冬実施)が本番であるので、2回目試験の合格率にほとんど意味はない。


さて、本気でよく分からないのは、こんな試験体系にすると一発合格者が激減すると思う。かくゆう私も、合格年度の前年3月に勉強を開始し、合格年度の5月に短答・7月に論文を合格したのだが、仮に12月に短答本番があったら多分落ちていると思う。この試験体系は、ベテランが利する気がする。また、短答(12月)から論文(8月)がこんなに時期が離れるのは、試験制度として珍しいと思われ、受験生としてはピークの持っていきかたが難しくなるだろう。また、仮に12月の短答に落ちると、(5月の2回目は大変難しい試験のため)本気で目指す論文試験は約1年半後になり、モチベーションの維持は容易ではない。いきおい、会計士試験の長期化を招き、新規参入が減少し、結果としてベテラン層が相対的に合格していき、全体としての合格者の質は劣化するのではないか(ベテランだから劣化するわけではなく、あくまで新規参入が減少するからと解釈いただきたい)。


合格率の観点から洞察すると、旧制度の平均合格率は短答25%であるので、10%しかない現行制度は短答の重要性が際立って高くなってきたと言える。これは危険だと思う。単なるマークシートの大して深みの無い試験でふるいにかけるのは、プロフェッショナルのあるべき選別過程ではない。論文の採点業務が煩雑だから短答で網にかけたい、というのであれば、監査法人で暇しているマネージャーやパートナーを臨時雇用してやらせればいいのでは(監査法人にとっても喜ばしい)。


この項の結論として、現状の短答試験は会計士試験の劣化を招いていると言わざるをえない。旧制度が全面的に良かったと言うつもりはないが、新制度の中でも、この短答2段階式は非常にイマイチだと考える。



では、明日以降、各年代の特性など他のネタを展開していこうと思う。