長らく続けてきた監査法人業界分析も、この回のPL分析で締めたい。

考える、社会派会計士のブログ


【分析と洞察】

①売上
まず目立つのは売上の猛烈な減少であり、監査済み2社の直近期では6%-7%の減少となっている。要因別に分析すると、以下のようになるだろうか。

【業界情勢】
× JSOX2期目を迎えての報酬自然減
△ IFRS助言指導業務が高まりつつある

【経済情勢】
× リーマンショック後に開始した決算期であり、監査報酬を下げざるをえなかった
× 上場会社数の漸減(過去のエントリー参照


②報酬分配
売上対比で報酬分配金額を割ると、直近期で、新日本は約60%、トーマツは65%となっている。これは、新日本が給与賞与の大幅カットをしたり、高所得者を中心に人員削減した効果が如実に出ていると考えられる。なお、新日本は特損で17億円のリストラ費用を計上して、業界で騒然となった。

いずれにしても、監査法人のコストの大半は人件費であり、製造業のようにいくら生産性を高めたりして原価を低めようとしても、最終的に実入り(年収)の減少は避けられない。


③経常利益
新日本はH21.6期に赤字、トーマツはH22.9期に赤字になっている。新日本の業績悪化は早めに出て、その止血をH22.6期に実施したので、経常段階では黒転した。

トーマツは翌期(H23.9期)に黒字転換するよう、なりふり構わずに給与賞与カット等に励まれることだろう。

④実効税率
税効果加味後の税金費用を税前利益で除すると、直近期で、新日本は約80%、トーマツは50%となっている。トーマツのそれは通常レベルだが、新日本は異様に高い。これは、前日に指摘したとおり、新日本は繰延税金資産を取り崩していると考えられ、これは言うまでもなく将来利益の乏しさを反映している。

⑤1社あたり収入
クライアント分析で指摘した通り、製造業のビッグクライアントを有さないトーマツの1社あたり数字は相対的に小さいことが分かる。この理由はクライアントの規模だけでは勿論無いと思う。

業界内ではよくトーマツの給料が低めだと言われることがあり(同一年次者を横に比べたことは無いが、たしかに上表では一人当たり年収は小さい)、それゆえにクライアントにチャージしている監査報酬も低くなっているのかもしれない。



以上をまとめて、今後を占うとすると、

マクロ悪化、会社数減少、JSOXの更なる低付加価値化、IFRS業務の延期中止続発、など売上減少は止まりそうにはない
・仮に上記の要因により単純に5%の減収が続くとすると、コストの6-7割を占める人件費については、大幅な人員削減と単価減少が進展せざるを得ない。固定費が3割とすると、人件費ベースで10%は削減しないと減収に追いつかない。
・人員で5%、一人当たり年収で5%削減すると仮定する。大手法人なら5%は300人の純減に相当し、新人を最低200人採用するとすると500人のカット(全体比10%)が必要になる。つまり、監査法人の下位10%は常にクビの危機と隣り合わせである、ということがいえる。




調査の時間も含めて、これほど長く監査法人を客観的に見ることは過去になかったが、確かに言えることがあるとすれば、

・監査法人業界及び各社の勢いの無さは鮮明
・その縮小均衡を打破する要素は見当たらない

・監査法人の就職問題は解決せず、さらに再就職問題が勃発しそう



悲観的であるが、以上である。マーケットが総悲観のときは買いという投資の格言もあるのだが、仮に監査法人が上場していたら、株価はいくらをつけるだろうか。東電のような管理銘柄的に、また「つぶせない」会社としてゾンビ銘柄として評価されるに過ぎないのでは、という思いにひたってしまった。