男女、つかのま
【登場人物】
男・・・・・・31歳、商社マン
女・・・・・・26歳、高校の国語教師
○男の部屋(夜)
男と女、ソファに並んで座っている。
男「愛してる人に、いきなり、『憎んで』っていわれたらどうする?」
女「なんでそんなこというの、急に」
男、おもむろにタバコを取り出し、火をつけようとし、止める。
男「いや、なんとなくね、今読んでる小説に、そんなことが書いてあったから」
言いつつ、タバコに火をつける。
女、そのタバコを取り上げ、一口吸ってから
女「ウソ、なんとなくでそんなこと聞かないでしょ、普通?」
男、タバコを取り返そうとして女の唇に手を伸ばすが、よけられる。
男「おい、なんだよ」
女「憎んでほしい?」
女、タバコを男の口にやさしく戻す。
女「あなたが憎もうとしている女は、どんな女?」
男「どんな・・・って、お前はお前だよ」
男、タバコをあわててもみ消す。
女「答えになってないよ」
男「お前は今、俺の目の前にいるだろ? 俺も今、お前の目の前にいる。でも、たとえば、お互いにここから消えてなくなっちゃっても、それでも、俺は俺、お前は、お前・・・」
女「(遮って)なんかあった? 浮気?」
男「(むせながら)バカ! なんでそんなことになるんだよ!」
女「愛とか憎しみとか言い始めると、なんか男って、あやしいんだよね」
男、立ち上がり、キッチンへ向かう。
× × ×
男、冷蔵庫を開けながら何かブツブツ言っている。
女「(声だけ)なに、なんか言った?」
男「いや、お前は面白いやつだなぁ、と思って」
女、男の後ろに立ち、
女「こんな会話してるときの男女って、たぶん、人から見たら気持ち悪いかもしれないんだけど、当人たちにとっては、けっこう楽しいんだよね」
男、冷蔵庫を閉めながら、
男「そんなこと言ってると、憎むぞ」
女「(後ろから抱きついて)憎むんなら憎んでごらん。その分愛してあげるから」
おわり
