72歳となって、過ぎ越し方を考えてみると、今が一番幸せな気がします。

自分が好きな事をしている、毎日が充実している。

経済的な魅力はありません。貯金もなし、日々の暮らしはギリギリ。

人間的な魅力はありません。わがままで協調性なし、人の意見は聞きたく無し。

社会的な魅力はありません。名誉も、地位も、貢献も、権力も、知恵もなし。

一人暮らしが実にはまっているのです。

 

そんな私ですが、人に恋する時期もありました。

このエッセイは、2011年2月、平成23年のものです。

今から、12年前、中学時代の思い出ですので、それは57~8年前となります。

 

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恋の初風

 

 季節の初めに吹く風を初風、特に秋の風をいうそうだが、私の心にその風が吹いたのはいつ頃だったのだろうか。

 

 中学校へ通ういつもの道で、彼女は友達と待ち合わせをしていた。その日は、まだ友達が来ていなかったので、手持ち無沙汰な後ろ姿がそこにはあった。同じクラスなので、「おはよう。吹いた。返す「おはよう」は心なしか震えていた。

 「友達は、まだ?」

 「今日は、ちょっと遅いみたい」

 「そう、じゃぁ~」

 「じゃぁね~」

 短いやりとりなのだが、風の中に甘い香りが漂いだしていた。一瞬にして、私の心を捉えたその笑顔を落とさないように、学校までゆっくりゆっくりと歩いていった。

 その後、同じ高校にも通ったが、彼女の笑顔を落とさないまま、無為な風が流れただけだった。

 

 さて、齢六十にして、風は吹くのだろうか。吹いたとしても、それは初風ではなく、末風となることだろう。いや、何年も前から、風は静かに吹き続けているのかもしれない。

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風が静かすぎて、吹いているのかどうかも、分かりません。

いずれにしても、恋には発展しそうにありません。

 

それもまた愉しからずやです。