郵便受けから夫が大きな封書を2つ取ってきて、私に差し出した。
「なんか一つは切手が貼ってない、あやしい感じ」と。
差出人の名前に記憶があった。
エッセイクラブのお仲間だ。
ただし、クラスは違う人ではある。
中に入っていたのはお手紙と2篇のエッセイと写真のCD。
そして、もう一つ、郵便にしなかった訳のものが入っていた。
一枝の梅の花。
この方は、92歳の男性。
クラブでは3度ばかりご一緒したことがあるが、実際は、クラブの慰安旅行でご一緒した仲である。
いつも一番にバスに乗り込み、しかも必ず一番後ろの座席の片隅を陣取り、新聞を読みながらみんなが来るのを待っているという方だった。
いつもリュウとした高級なジャケットを羽織り、お歳の割には背が高くスラッとしておられる。
ほとんど白髪ではあるが、波打っている豊かな髪は、ハンフリー・ボガートを彷彿させる。
旅行の際には、お世話になるからと、自分の近くに座る女性たちにはお菓子のプレゼントを下さる。
そして、モットーは、高齢だからと言って人に頼らない。
まるでダンディズムの極みではないですか。
今仮にAさんとお呼びするそのお方が、私にわざわざ気を使ってくださったのは、旅行の帰りに自宅まで送り届けてあげたからだと思っている。律儀な方なのだ。
そんな私に、満開の梅を一枝入れた封書を我家の郵便受けに入れていってくださるなんて、もう粋としか言いようがありません。
入っていた2篇のエッセイも、92歳とは思われないほどしっかりした内容で心温まるものであった。
写真の説明に、
「なにせ写れば良い式なので、関係ない、ご不快な思いをさせているものもあるかもしれませんがご容赦ください」
そして、2編のエッセイに関しては、
「春にちなむ駄作を2篇いれました、ご笑覧ください」と。
これぞまさしく究極のダンディズム。
92歳でも、人に頼ることなく、パソコンを駆使してエッセイを書き、CDに写真を収めるその努力は素晴らしいと思った。
まだまだ青いなと自分を振り返させられた出来事であった。