妻が散歩の途中で見つけて来たレストランに行って来ました。予約時間15分前に家を出て「上の道」まで上がります。そこから更に20歩程上ると、田んぼの中に出来た新興住宅地と民家を改造した小さなレストランがありました。その夜のお客は私達二人だけで、2時間程食事とワインを楽しみました。部屋にはオーナーのお父さんの描いたポートレートが幾つも掛けられていて、食事中ずっと誰かに見られている様です。人物写真は被写体の一瞬を切り取り、見る者にその人の感情を伝えてくれますが、人物絵画はその人の永遠を描き出しています。だからポートレートの女性達の眼はずっと私を見ているのです。

 

美味しく食事を頂き、ほろ酔い気分で帰路につきましたが、辺りは真っ暗闇です。街灯の無い下り道は危険なので、車道の方に曲がろうとしますが、何故か後ろを振り返ります。すると来た道の方に有る「猫の額の様な小さな公園」から奇麗な夜景が見える事に気が付きました。やはりあっちから帰ろうか、そう言って来た道に戻ると、そこから東京の都心や中央線上の煌びやかな光の数々、近くは立川から青梅線沿線上の街々の夜景が全て見下ろせます。これまでこの時間に歩いた事の無い「上の道」、そこから20歩だけ上がった所からこんな光景が見えるなんて。二人は暫く無言でその美しく静かな地平線に広がる夜景を眺めました。20歩下るともうその景色は見えません。

 

ねっ、振り返るって大事だよね、そう二人は語ります。知らない事が後ろには有るかも知れない。ああ、それから単眼複視の私には、あの素晴らしい夜景も2つ見えていたのは言うまでも有りません。