小 町 草 帋
(・・・よそながら みし)文もあり かせのたよりの 文もあり。ほそたに川の。まるきはしの ふみもあり。むろの やしまに。たつけふりの文もあり。墅中のしみづと。かきたる ふみも有。ゆきのしたかさねの。くれなゐぞめの ふみもあり。山ほとゝぎすきかまほしさは。一こゑをと。こひそめし みづからが。おとろひはてたる。ありさまたとへんかたなき 心なり
とて。また そでを おほにをしあてければ。なりひら むかしを。しのび給ふなよ。あふは わかれの はじめ。たゞ みづのあはなる世に。なにごとを いまかたり給へりふみの かずを うちわすれおもひしことを。はらひすて。なむさいほうごくらくせかいへ。むかへさせ給へと。ねんじ給ひて。わが くげんをものがれ。なれにし なさけの人
ほそたに川の。まるきはし=わがこひはほそたにがはのまろきばしふみかへされてぬるるそでかな
平家物語 巻9
むろの やしま=室の八島、下野の国の総社、大神(おおみわ)神社。そこにある池からは絶えず水気が
煙のように立ち上がっていたのを、かまどから煙が立ち上るのに見たてた。[歌枕]
朝霞深く見ゆるやけぶり立つ室の八島のわたりなるらむ 新古今集 巻一 34
墅中のしみづ=野中の清水、播磨国印南野(いなみの)にあったという清水。冷たくてよい水であったが、
のちにぬるくなってしまったという。[歌枕]
いにしへの 野中の清水 ぬるけれど もとの心を 知る人ぞくむ 古今集 巻十七 887