かさしの姫君6
(近代デジタルライブラリー・新編御伽草子から)
(・・・やがて御産湯衣)
まゐらせて、申されけるは、人々も見給へ、母姫君も御覧ぜよ、これに
つけても、御命ながくよとて、母姫君にさしよせ給へは、姫君見やり
給へば、いまだあやめもみえさせ給はねども、かゞやきいつくしく、御
顔ばせ、父少将に少しもちがはせ給はねば、そのとき姫君かくぞ詠
じ給ふ、
夢ならば ゆめにてさめて あさましや
こはいかなりし 忘れ形見ぞ
とて、御涙をながし給ふ、さるほどに北の御方きこしめし、あらうれし
のことどもや、いそぎ中納言殿に見せ参らせんとありしかば、母ひめ
君おぼしめしけるやうは、あらはづかしの事どもや、親の身にても、さ
こそあさましくおほすらめ、これにつきても少将殿命をめせとぞ、か
なしみ給ふ、さてあるへきにあらざれば、めのと、姫君を抱き給ひ、北の
御方もろ共に、中納言殿御覧して、あらうつくしの姫君やとて、やがて
御袖にうつし給ふ、御いとほしみかぎりなし、かくてつながぬ月日な
りければ、七歳にて御袴著せまゐらせ給ひけり、日数をふるほとに、ほ
どなく十三にそならせ給ふ、眉目容のいつくしさ、唐の楊貴妃漢の李
夫人我が朝の衣通姫小野小町なんとも、これにはよも勝らじとて、人々
申しけり、さる程に君きこしめされて、女御にそ定まりける、中納言殿
も、北の御方、母姫もろともに、御喜はかきりなし、さても御門御寵愛
はなはたしくこそきこえけれ、いよ/\浅からぬ御心にも、かなひ給
へは、ほどなく若宮姫君うちつゝきいてき給ひて、まことにめでたき
事にぞ人々申しけり、あまりにふしきなるためしなればすゑの世まで
の物がたりにかきおきはんべるなり
【頭注】
御袴著とは御裳著のことをいふなるべし
【コロリン注】
御袖にうつし給ふ=中納言殿、孫を抱っこしました
女御=後宮に入り天皇の寝所に侍した高位の女官。皇后・中宮に次ぎ、更衣の上に位した。
主に摂関の娘がなり、平安中期以後は皇后に立てられる者も出た
かさしの姫君、6回目・最終回。
菊の精・少将殿から愛された「かさしの姫君」。
産まれた姫は天皇の妃に。
孫の親王・内親王に囲まれ、
目出度し、目出度しでした。
昔の女の子は、こうした「御伽草子」で、
ワクワクしていたのでしょうね。
次回からは、「田村の草子」です。
お楽しみにね。
コロリン師匠