ワタクシお疲れ様。

という訳で、何でも許せる方限定小話。


義勇さんを笑わせる努力は止めて、もっと建設的に行こうと思う。4

最終話です。






「これは[オートマタ]と呼ばれる自動人形です。最近発明された[エモーション・エナジー・ジェネレーター]で稼働するように作りました。俺が作った素体に宇髄さんが自然に見える造形を施してくださったんです。」
小鉄は人形を前に説明を始めた。

「科学と芸術の融合っていうの?小鉄君はいい仕事するよねえ。」
宇髄は得意そうに小鉄を褒めた。

「宇髄さんの造形技術と本物の忍者の動作指導があってこそ出来たものです。宇髄さんの動きの賜物ですよ。」

仕掛け人と人形制作者同士が大げさに褒めあうのが聞いていてこそばゆい。

「それで、笑わない冨岡の笑いをシミュレートすることにしたんだわ。」
えっへん、という風に宇髄天元は厚い胸板を反らした。
「冨岡の笑顔が見たいなら、冨岡本人が笑うまでもない。」
「笑わぬなら、そのままでもいい冨岡義勇ってね。」

すかさず小鉄は
「ここのギアをこう動かすとー」
と言いながらゲームコントローラーのようなものを取り出し、隠しコマンドを出すように十字キーを操作した。
すると、義勇の顔をした人形が帯に挟んでいた扇子を取り出し口に当てて「ほーっほっほっほっ」と悪役令嬢がするような高笑いをした。

次にコントローラーを動かすと人形は「ニチャア」と粘つくような薄笑いの表情をした。

よくできている。
良くできてはいるのだが、はっきり言って気持ち悪い。
義勇にそっくりなぶん却ってたちが悪いというか、容姿が美しいだけに不気味というか、なんとも言えない胡散臭さがあった。

「どうして女装なんですか?」
しのぶが手を上げて訊いた。

「途中で開発資金が尽きたので、女性の素体に冨岡さんのヘッドを乗せました。冨岡さんヘッドのままではヘアスタイルが野生っぽかったので、夜会巻きにして蝶の飾りで留めました。蝶屋敷で付けている髪飾りと似たような品を見かけたのでそれを。」

「それで、こいつの最初の仕事として不死川と竈門が喧嘩せずにやってるか偵察に行かせたのよ。煉獄がいたんでまあ大丈夫そうだったが。」

「そうだったのか、だが心配するまでもないぞ。」
と煉獄杏寿郎が答えた後から、その説明では収まりがつかないという風に実弥が続けた。

「おい宇髄ィ。論理が色々破綻しているんだが。」
「偵察ゥ?最初から俺達を驚かそうとしてただろゥ!そうだよな。」
実弥は気色ばんだ。
「人形のお披露目だけなら、天井裏に潜む意味はないもんなァ!」

「不死川、怖かったのか?」
宇髄天元はニヤニヤ笑いながら不死川を軽く小突いた。

「あのようなモノが急に二階の窓の外に現れたら、誰でも驚くと思うが。」
煉獄杏寿郎は割と冷静だったが、宇髄は煉獄に対しても煽るように言った。

「煉獄は驚いたなあ。」
「それで飾り付けを作り過ぎてしまったってか。」
宇髄天元は愉快そうにケタケタ笑った。
いつの間にか詰められている側が逆転していた。

騒ぎを聞いて、甘露寺蜜璃が厨房から再度顔を覗かせた。
「あ、あのう、冨岡さんが来られたので、もう鍋にシャケを投入していいですか?」

「話の腰を折るな甘露寺ィ」
不死川実弥は甘露寺蜜璃をじろりと睨んだ。

「ひゃいっ!」

「甘露寺が頑張って料理をしているのに、腰を折るなとはなんだあ?」
伊黒が厨房から顔をのぞかせた。

「今日甘露寺が用意したのはなあ、アラスカ産キングサーモン、ノルウェー産アトランティックサーモン、そして日本からは北海道産と新潟県村上産の鮭だ。大根は京都の聖護院大根、鹿児島の桜島大根、山口の千石台大根だ。この吟味した材料をだな・・・」

「鮭や大根の産地なんてどうだっていいだろう。宇髄に話があるって言うんだよォ。だいたい大根には鰤だろうが!って前に鰤だって結論になったよなあ。あァ?」

「食べ物を粗末にするな不死川!」

「俺は今日の大根は、まだ見ても触ってもねえ!」

悲鳴嶼と玄弥と村田は危険を察して蝶屋敷の三人娘を隣室に避難させた。

「もう、何が何だかわからないな。」
「しばらく別室待機だ。」
「皆さん顔が怖いですう。」
「鮭にそんなに種類があるなんて知らなかったですう。」
「物が飛んで来ると危ないから、隣の部屋で収まるのを待とう。」
「あのう、スーパーボール、まだ転がってましたよ。」
「大丈夫、あの人達は体幹強すぎで踏んでも転ばないから。」

冨岡義勇そっちのけで騒ぎは拡大していった。

義勇はというと、炭治郎と並んで部屋の隅っこに座り、不死川と宇髄、伊黒と煉獄がワチャワチャしている様子を眺めていた。

炭治郎は義勇にお茶を出した時に騒ぎが始まったので、そのまま義勇と並んでいるしか無かったのだ。

「炭治郎、俺が笑えばこんな事にならなかったのか?」

義勇はボソッと呟いた。

それを聞いた炭治郎は、
「俺は、義勇さんが笑いたくなければ無理に笑う必要はなくて、笑いたい時に笑えば良いと思うんです。」
と、ここぞとばかりに力説した。

「元々はお館様に言われた事が発端なんだそうですが、お館様の言葉の解釈で、義勇さんを笑わせるという実績を上げる事が目的になってしまってました。」
「それで俺は、今年は義勇さんを笑わせる仕込みから下りようと思って考えを実弥さんに話していたら、あの人形が来たんです!」

「そうか。」

冨岡義勇はそう言って俯いた。

しばらくして顔を上げて、
「炭治郎、おはぎを作る事になったら、今年は俺にも声を掛けてくれ。」
と義勇が言ってきた。

唐突過ぎると、炭治郎は義勇の顔をまじまじと見つめた。
「義勇さん、おはぎにわさび詰めたりしませんよね?」

義勇は目を逸らしてぼそぼそ言った。
「どうしてそういう考えになるんだ。」

「いや、俺は義勇さんが仕返しをするとかそういう腹黒い人だって言ってるんじゃなくてですね。」
「以前、宇髄さんの発案でロシアン餃子をやった時、宇髄さんと実弥さんがネタの餃子を包んで。」
「俺は匂いでネタ餃子がわかるので、先に本当にヤバそうなタネのものを片付けようと思ったのですが、ズルは駄目だと伊黒さんに拘束されて。」

冨岡義勇はそう説明をする炭治郎をじっと見つめた。
「それも、俺を笑わせるための仕込みだったのか?」

二人の間に微妙な空気が流れた。
「あっ!俺、口止めされていたのに言っちゃったよ。」
炭治郎は両手で口を押さえた。
全然手遅れだ。

そんな炭治郎の様子を見た義勇は、餃子の一件を思い出したようだった。
「あの時の辛子高菜入りの餃子は美味かったな。」

そうボソッと呟いた義勇の口角が、炭治郎には一瞬上がった・・・
・・・ように見えたので、炭治郎は義勇の口元を見つめた。
その時の義勇の匂いは複雑でどのような気持なのか炭治郎には分からなかったが、本当に美味しかったんですか?と直接義勇に訊く勇気も持てなかった。

待て、義勇さんはアレを食べていなかったのか?
ではひき肉1:花椒2:豆板醤7の餃子と焼いたあとで練りワサビや練りからしをたんまり注入した餃子は誰が食べたんだ?
宇髄さんがやせ我慢?
炭治郎はふと思いついた自分の考えにぐるぐるしていた。

宇髄と不死川に端を発した騒ぎは焦点がどんどんズレていき、低次元な罵りあいで収拾がつかなくなってもうパワー勝負しかないとなりそうだった時、胡蝶しのぶがクラッカーをパン!パン!と鳴らした。
クラッカーが銃声のように聞こえたのか、皆の動きが止まった。
そこに線を引いて飛んできた紙テープに絡め取られた4人と1人と1人形。

「みなさん、もういいでしょう。オードブル隊が戻って来ましたよ。冨岡さんは早く主賓席に着いて下さーい。」
「不死川さんもそれ以上噛みつくと、正座して貰いますよ。」

「ちぇーっ、何で俺ばっかりなんだよォ」
実弥は不服そうだったが、大人しくしのぶに従った。

冨岡義勇は相変わらず無表情だったが、ヤレヤレと言った風でもあった。
「動機が何であれ、誕生日を祝って貰えるというのは嬉しい事だな。」
そう言って立ち上がると炭治郎の肩をポンと叩いた。

「毎年何か起こるけどよォ。冨岡の誕生日に冨岡の無表情を肴ってか餌にして皆が集まるんだろゥ。」
と、不死川実弥が義勇と炭治郎に声を掛けた。

炭治郎は実弥に
「また来年も皆で義勇さんの誕生日を祝えたらいいですね。」
と返事をしたが、実弥は
「あぁ、でももう飾り付け作り係は勘弁だなァ」
と言ってニカッと笑った。

「今日はありがとうな。」
義勇は顔を上げて小さい声で言った。

「ハァ、会はこれからだぜェ。」
「行きましょう義勇さん。」

「ああ。」

冨岡義勇の誕生会は始まったばかりだ。

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それで、無意味にデコラティブな花瓶ですが、玉壺が潜んでいたとかいなかったとか。
色々思うことがあり、出て来れなかった模様です。

【完】