月刊戦国瓦版です。


あかいらか長谷川が、

戦国時代を始めとした歴史小説をご紹介します。


今回ご紹介するのはこちら。

レオン氏郷(うじさと)
レオン氏郷(うじさと)安部 龍太郎

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『等伯』で直木賞を受賞された、安部龍太郎さんの長編小説です。


レオン氏郷の「レオン」というのはキリシタン名で、

一般的には「蒲生氏郷(がもううじさと)」という名前で知られた武将です。


一般的には、と言っても、おそらくマイナーに分類される武将なんですが、

この武将は混沌とした戦国時代に、

一筋のキラリと光る流れ星のような存在感を示した、爽やかでハンサムな武将なんです。


ぼくのイメージ先行の部分もあるんですが。


氏郷というのは、

ちょうど今大河ドラマでやっている『八重の桜』の舞台である、

「会津若松」の街の基礎を築いたともいえる名将です。


会津若松にある大きな城を「鶴ヶ城」というのですが、

蒲生氏郷の幼名(小さい頃の名前)の「鶴千代」から名づけられたそうで、

会津若松の名物である「起き上がり小法師」も、

氏郷が仕事のない武士にやらせた副業から始まったといいます。


そして、輸入したばかりの最先端の文化であったキリスト教に入信したり、

大流行していたお茶を極めようと、お茶界の神様であった千利休の弟子になったり、

文化的にも、もちろん合戦でも、大活躍の武将だったんです。


そんなハンサムな氏郷を描いた安部さんの長編小説、おもしろいです。


何がおもしろいかと言うと、

まずは、キレイすぎる氏郷の苦難ですよね。


信長に憧れた氏郷は信長の目指すキラキラした夢に、

信長の娘を娶り、婿として共に邁進していくんですが、

その途中に、本能寺の変が起きてしまいます。


その後に天下を取った秀吉は、

氏郷の妹を娶り氏郷を取り込もうとするのですが、

これがまた気が合わない。


まぶしいオーラを放つような氏郷と、

ゲスい秀吉とは、それは合うわけないんですよね。


そして氏郷は、キリスト教へ救いを求め、

視野を外国へ向け貿易を行おうとするなど先見性に優れた面も見せるのですが、

ここもまた秀吉が邪魔なんですよね。


秀吉がバテレン追放令を出すなど、キリスト教に厳しい態度をとって、

当時の代表的なキリシタン大名であった氏郷憧れの高山右近も追放されたり、

とにかく氏郷にとって向かい風のことが続いてしまいます。


そして、もう一つのおもしろさは、

独眼龍、伊達政宗とのバトルです。


氏郷は小田原征伐の後の会津若松へ移ります。


ちなみに「若松」は氏郷が付けた名前だそうで、

それまでは「黒川」と呼ばれていたそうです。


「若松」という地名が、

氏郷の地元の近江(現在の滋賀県)の蒲生というところにあったそうです。


そんな会津若松の北に領地を接していたのが、

奥州の覇者、伊達政宗でした。


伊達政宗は野望ギラギラの食わせ者で、夢は関東制覇でした。


つまり、会津などを制覇して、

下野(栃木県)、武蔵(埼玉県・東京都)などに進出し、

自分の領土とする気満々でした。


しかも、会津の地は、

一旦自分の領地としたのに、秀吉に没収されてしまった場所でした。


そしてそこに氏郷が入ってきたわけですから、

もうそこはバチバチなわけです。


ここの対決がおもしろいんですよね。


そして、氏郷は若くして亡くなってしまうのですが、

その死因は毒殺と言われています。


では一体誰が毒殺したのでしょうか!?


ほぼネタバレですかね。


大丈夫です。


推理小説ではございませんので。


そこを踏まえて読んでも、というか読んだ方が、

ワクワクドキドキ読める小説だと思います。


自分でこうやって感想を書いていて思ったのですが、

氏郷の幕切れへ向けた、少し悔しい物語なのかもしれません。


戦国時代の小説は、そういったものは結末のものは多いのですが、

それにしても口惜しく「うぅぅぅ…、氏郷~!」となってしまうんですよね。


一人の武将を濃厚に描き上げる安部さんの筆力はやっぱり見事で、

電車での読書の時間が楽しみになってしまうんですよね。


総武線で新宿へ向かっていて、

代々木駅から山手線へ乗り換えて渋谷方面へ向かう時、

「ん~、もうちょっと読みたいな~」と思って、代々木駅で降りず、

新宿駅乗換えにしちゃうんですよね。


そんなおもしろさです。


伝わらなかった場合、ぼくの筆力が足りていませんね。





またね。