戦国瓦版です。


あかいらか長谷川が、

戦国時代を始めとした歴史小説をご紹介します。


今回紹介する小説はこちら。

熊谷次郎〈下巻〉 (1961年)
熊谷次郎〈下巻〉 (1961年)富田 常雄

新潮社 1961
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地元熊谷の英雄、熊谷次郎直実の生涯を追った、

長編小説の後編です。


物語は、

石橋山の戦い後の頼朝の台頭から、

鎌倉幕府成立後までです。


年号にすると、1180年くらいから1200年くらいまででしょうか。


上巻とは違って、

この時代のヒーロー、源義経が活躍します。


もちろん、武蔵坊弁慶も登場します。


というか、この小説のかなりのキーマンです。


弁慶は、この小説の中では、直実の親友として登場します。


弁慶も直実も、身体がやたらと大きいということで、

お互いに親近感が湧いたということで、

合戦のことなり、好きな女のことなり、わちゃわちゃやっています。


この優しき大男、が読者の母性本能をくすぐります。


最後まで、自分の中で消化できなったのですが、

熊谷次郎直実は、自分のことを生来の二番手だと自虐してます。


これもこの小説の肝なのかなと思います。


直実が倒した熊<父親が倒した熊、

直実の怪力<弁慶の怪力、

直実の妻←兄の妻(兄が病死した後に直実の妻に)、

などを、本文のところどころ、本人が語るので、

いや、お前すげーと思うよ、と読者は思わずつぶやいてしまいます。


そのほっとけない感じだったり、

どこか共感できるところが良いのかもしれません。


そしてとにかく、

この小説の面白い点は、女性のキャラクターです。


上巻で、ボーイッシュな馬乗り女性武士「かづさ」は、

めでたく直実の側室となるのですが、

側室になった途端、急に女性っぽくなります。


言葉使いも、急に京なまりのような、なよっとした口調に変わって、

直実も、女性とはこうも変わるものかな、と呑気に驚いています。


その「かづさ」のギャップにまんまとはまった直実は、

どんどんのめり込んでいくのですが、

そこで嫉妬の塊と化したのが、正妻「わらび」です。


下巻では、上巻ほど登場しないのですが、

登場するときは、大体ヒステリックしてます。


人事だから、こちらは気楽なのですが、

これが自身のことだと思うと、おぞましすぎます。


鎌倉の屋敷に若い側室「かづさ」、

熊谷の領地に年増の正室「わらび」。


直実も、女性とはこうも変わるものか、とまたまた呑気に驚いていました。


もちろん、頼朝の正室「北条政子」も、なかなかの鬼嫁ぶりで登場してきます。


時の最高権力者である頼朝がペコペコしています。


ああ、あと、

あまり頼朝は名君としては、描かれていません。


直実が、弁慶を通じて義経と仲良くなるので、

そういう方向になりますが、

頼朝は、冷酷で残酷で極端な色好みとして描かれています。


ぼくは、性格がまさに判官贔屓なので、

その辺りは、逆に、好んで読むことができました。


途中、頼朝が「かづさ」のギャップにやられて、

つまみ食いしようとするところとか、キャッキャしてしまいました。


男って馬鹿だなー、と。


そして、もちろん、

幸若舞の題目となっ場面、

熊谷次郎直実が、平敦盛を討つシーンも登場します。


自分の息子である直家と同じくらいの若者を、

自分の手で殺めたことで、この世の無常感を否が応でも味わった直実は、

これを機に、出家することを心に決めたといいます。


人間50~年~♪下天の内をくらぶれば~♪のやつです。


織田信長が好んで踊ったというものです。


大河ドラマなどで、必ずピックアップされる大事なシーンに出てきますよ。


あと、歴史好きには少し知れた、

「逆馬(さかさうま)」のシーンも登場します。


極楽のある西に背を向けたら、極楽浄土には行けない、

という、直実独自の理論を基に、

直実は、京都から熊谷へ馬に乗って帰るとき、

向きを逆さま乗って帰ったといいます。


鎌倉に背を向けてるってのも、トゲトゲしてて良いですよね。


股擦れがひどそうです。


直実くらいの豪の者だったら、大丈夫だったのかしら。


最後の最後で、

久下家との領地争いも一段落つきます。


実際は、そんなほんわかしたものではないでしょうが、

ぼくは嬉しい領地争いの結末でした。


総じて、この小説、おもしろい小説です。


古書に入るんでしょうか。


普通の本屋には並んでないので、

ネットなどで購入してみてください。


鎌倉幕府成立の過程もしっかり勉強できますよ。


是非。






またね。

熊谷次郎〈下巻〉 (1961年)
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