プロローグ
青森の実家の母親からの一本の電話が全ての始まりだった。今から5年ほど前の秋のことだったと思う。
電話に出ると、いつものように軽い挨拶を交わすと、急に母親の話すトーンが明らかに変わった。抑え込んできた感情を抑えることができなくなっている様子だった。
「話したいことがある。」と。いろんな感情が渦巻いていたのだと思うが、呼吸が乱れ、泣き出すのを必死にこらえている母親の声を聞いて、何か尋常ではないことが実家で起こっていることを察することができた。
「お父さん、家を出て行ってしまった…。」
もう60才を過ぎた父が家を出て行ったというのである。なぜ母親が電話の向こうでそんなに取り乱しているのかが理解できた。もう一人では抱えられなくなっている状況だったのだろう。
私は東京から年に1回くらい帰省し、それ以外は月に1回ほど母親に電話をするくらいだったので、両親がもめていることすら知らなかったし、あたりまえのように2人で一緒に老後の生活を送っているものだとばかり思っていたが…。実際はまったく違ったらしい。
それまでは仲睦まじいとまでは言わないものの、大きな問題もなく一緒に暮らす田舎の夫婦だった両親になにが起こったのか?
そのころの数年間の間に両親の関係が一気に壊れていったらしい。
何があったのか?
ちょうどそのころ、父にとっては老後の人生をどのように組み立てていくのか模索していた時で、その人生の節目ともいえる時期にいろんな出会いがあったのだと思う。
(つづく)
