今回のLink MEは特別編として経済コラム「先月の円ドルレート[10-1] 2025年10月」に引き続き、月末値変化で見た2025年10月の円ドルレート変動の原因を、日経新聞電子版マーケット欄為替・金融記事と「為替レート決定の仕組み ①~③」で説明した利子(金利)裁定式、に基づき解説します。
2025年10月の円ドルレートは第1週0.66円の円高・ドル安でスタート、しかし翌第2週は5.44円の揺り戻しの超大幅な円安・ドル高へ反転、ところが翌第3週は一転して3.15円の大幅な円高・ドル安へ回帰、翌第4週は3.13円と第3週の円高・ドル安をほぼ相殺する3.13円の大幅な円安・ドル高へ反転、10月最終第5週には再び1.48円の大幅な円安・ドル高が持続、2025年10月最終取引日10月31日(金)154.30円は2025年9月最終取引日9月30日(火)148.06円と比べると、6.24円も下回る超特大の円安・ドル高で終わる、第1・3週の累計3.81円の円高・ドル安は第2・4・5週の累計10.05円の円安・ドル高を下回る円高・ドル安と円安・ドル高が交互する循環的変動となりました。
「為替レート決定の仕組み ①~③」で説明した、利子裁定式i-i*=(πe-π)/πを予想為替レート(πe)について解いたπe=π(1+i-i*)を使って、2025年9月30日(火)と10月31日 (金)の予想為替レートを求めてみます。利子率(金利)データは日米10年物国債利子率を使用します(時差を考慮し米利子率は前日データ)
2025年9月30日(火)の円ドルレート終値148.06円、円利子率1.645%、米利子率4.139%を上式に当てはめると、予想為替レートは144.37円となります。同様に10月31日(金)の円ドルレート終値154.30円、円利子率1.665%、米利子率4.096%を上式に当てはめると、予想為替レートは150.53円となります。2025年9月30日(火)から10月31日(金)にかけての予想為替レート変化6.16円の円安・ドル高、他方両日の日米利子率格差はそれぞれ、-2.494%、-2.441%で日米利子率格差変化(Δ(i-i*) )0.053%縮小となります。
これらの値を以下の計算式に当てはめると、予想為替レートの変化(Δπe )6.16円の円安・ドル高が現実為替レートの変化(Δπ)へ及ぼした円安・ドル高効果は6.31円、他方日米利子率格差変化(Δ(i-i*)0.053%縮小が現実為替レートの変化(Δπ)へ及ぼした円高・ドル安効果は0.08円、6.24円(現実為替レートの変化) ≒6.31円-0.08円が得られます。円安・ドル高予想は円安・ドル高圧力を及ぼす方向に作用したのに対し、日米利子率格差縮小は円高・ドル安圧力をもたらしました。
2025年10月の日長期利子率は傾向として第1週の上昇が支配的、他方米長期利子率は傾向として第1週の低下が支配的という動きをしました。10月全体を通しては、日長期利子率が上昇したのに対し、米長期利子率は低下したので、日米利子率格差は縮小しました。したがって、利子裁定式の考え方に従えば、円安・ドル高予想に基づく円安・ドル高圧力が日米利子率格差縮小を通じた円高・ドル安圧力を上回り、結果的に6.24円の円高・ドル安はもたらされたという形で説明できます。
「先月の円ドルレート[10-1] 2025年10月」のグラフで描かれる傾向線の動きは、利子裁定式の考え方に従えば、円安・ドル高予想と日米利子率格差縮小は相反する方向で作用しましたが、前者の円安・ドル高圧力が後者の円高・ドル安圧力を凌駕したという形で説明できます。前月末比並びに前週末・当該月末比でみた2025年10月の円ドルレートは、第2・4・5週の累計10.05円の円安・ドル高が第1・3週の累計3.81円の円高・ドル安を圧倒するので、2025年10月第2・4・5週の日経新聞電子版マーケット欄為替・金融記事に基づき円安・ドル高の原因を整理した「先月の円ドルレート[10-1] 2025年10月」を用いると、日米利子率格差縮小と円安・ドル高レート予想の原因を特定できます。
日米利子率格差拡大の原因は、傾向的な日長期利子率上昇と米長期利子率低下です。日長期利子率の傾向的上昇をもたらした要因としては、財務省による10年債入札への警戒感に基づく一方向への持ち高傾斜の限定的な動き・低調な10年債入札結果による債券需給の緩みを警戒した売り、が挙げられます。他方米長期利子率低下をもたらした要因としては、9月のADP(Automatic Data Processing)全米雇用リポートで市場予想に反した雇用減・米連邦政府機関の一部閉鎖、が挙げられます。
円安・ドル高レート予想に基づく円安・ドル高圧力の原因は、以下の通りです。
第1は、パウエル米連邦米連邦準備理事会(FRB)議長の12月利下げ後退発言・習近平氏の合成麻薬フェンタニル対策実行約束に対するトランプ氏の対中国関税10%引き下げによる米中対立懸念の緩和・米政府によるロシア石油大手の制裁対象追加措置がもたらしたニューヨーク原油先物相場の大幅上昇、に基づく米長期利子率の先高観です。
第2は、日銀10月地域経済報告(さくらリポート) における各地域の強弱まちまちの景気内容・8月毎月勤労統計調査速報における8カ月連続マイナス実質賃金・早期利上げ必要性の情勢にはない10月金融政策決定会合の見方・高市新政権と日銀の十分に密な連携に要する時間の長さ・想定よりも金融引締に積極的な「タカ派」ではなかった10月金融政策決定会合の内容・追加利上げ実施にはなお時間を要すると受け止められた植田日銀総裁発言、に基づく日銀の早期利上げ観測後退見通しです。
第3は、米地銀の信用リスク懸念緩和・米中対立緩和の期待感・日本株含み益に対する海外投資家の為替変動リスクヘッジ、に基づく日米株価上昇を通じた円キャリートレードの開始です。
第4は、所信表明演説での第104代高市早苗首相「責任ある積極財政の考えの下での戦略的財政出動」発言・輸入企業など国内実需筋の円売り・ドル買い観測、に基づく円安・ドル高予想です。




