私が住む関東近郊には「夢の国」と呼ばれる場所があります。
可愛らしいキャラクターたちや楽しげなアトラクションがテーマパークを彩り、夏休み、冬休み、クリスマス、お正月・・・と、季節ごとに魅力的なイベントもあって、年に何回も訪れるファンも多い、日本でも屈指のファンタジーワールドです。
私自身は、、、このファンタジーの世界を理解する要素に欠けております。。。
「嫌い」とかいう感覚ではありません。
よくわからない、とか、入り込めない・・・に近い感覚です。
嫌いになれるほどの理解力もないので、行くのが嫌ということでもありません。
もちろん自分から誰かを誘って行くことはありませんが、誘われたら普通に行きます。
と、いいますか、そこそこ行ったことがあります。
もともと地方出身でして、比較的若いころに関東に引っ越してきましたので、時々遊びに来てくれる出身地の友人たちから「一度は行っておきたい」と言われることが多く、何度か案内を兼ねて同行しました。
若い頃というのは、場所がどこであっても友達となんだかんだとお喋りしたり騒いだりするだけで楽しかったりするもので、、、
そんなわけで、リクエストがあればその夢の国へ出向き、自分なりに楽しんでおりました。
ただ、やはり、自分自身のテンション上がって時間が忘れるほどめちゃくちゃ楽しい、という感じには、、、なりません😅
でも、
「一度は行っておきたい」
これは、よくわかります。
せっかく遠路はるばる来たんだから、興味はどうあれ「行っておきたい、見ておきたい・・・万里の長城、エッフェル塔、ピラミッド などなど」と同じです。
さらにファンタジーワールドが好きな人たちはとても楽しんでくれるので、それを見て話しているだけで嬉しくなったりするのですが、、、
自分と同じタイプが来てしまったとき。
これはなかなか、、、なんとも、、、な雰囲気になることがあります
ある年の夏。
それはやってきました。
私に輪をかけたようなリアリストの登場です。
子供のころからの知り合いで、小学校時代から私たち二人とも同級生たちから「ドライやねぇ、現実的やねぇ」と言われてしまうような・・・
筋金入りと言っても過言ではない、彼女もそんなリアリストの一人でした。
「一度は行っておかんとね。」
ある種のリアリストが発するこの言葉は、
もはや「実地調査」です。
ファンタジー好きな人たちにはご理解いただけるかどうかわかりませんが、、、多くの人が魅了されるという場所には実際に出向いて、見て、確認しておかねばならないのです。
「え、行くの?」
と思いながらも、気持ちはわかるので、もちろん付き合います。
そして、、、
とても暑く、風の強い夏のある日、リアリスト2人組の夢の国への旅がスタートしました。
●テンション・・・低め
●アトラクション・・・ほとんど乗らない
●グッズ・・・買わない
もはや、招かれざる客です。
なのにですね、とにかく全部見て回るのです。
なぜか妙に目を光らせながら。
すべて見て、確認しておきたいのです。
何を確認したいのか、しているのか、自分でもわからくなるほどに猛スピードであちこち見て回ります。
私は付いて行けます。
むしろ、ちょっと心地良いくらいのスピードです。
似たタイプですから。
そして、疲れ果てて、後半はほとんど休憩・・・です。
そして、その瞬間 がやってきました。
夢の国では夕方になると、パレードがはじまります。
キラキラ光る電飾で飾られた乗り物に乗って、キャラクターたちが所せましと踊ったり手を振ったりしてくれます。
少しでも近くで見ようと沿道には多くの人が詰めかけます。
我々は・・・もちろん、少し離れたところから見ておりました。
行進も半ばに差し掛かったころだったでしょうか。
彼女が私に聞いてきました。
「ねぇ、これって、テーマは何なん?」
・・・・・・・
(テーマぁ? それ、私に聞く!?)
と思いながらも、ガイドとして、ここはそれらしい答えを・・・と思いながら頭を巡らせ、口をついて出たのは、
「夢・・・ちゃう?」
「ふーん、夢 ・・・ねぇ。」
(夢の国好きの方、本当にごめんなさい。)
その時でした。
後ろのほうから、
ギー--ッ バン!!
と大きな音がして、驚いて振り返ったその視線の先には、、、
小さな小屋のような建物があってその出入り口の扉が大きく開いていました。
その小屋は、おそらく荷物置き場などに使われているか何かだったのでしょう。
本来であればゲストたちが入ることも見ることもない、運営する側の方たちが使用するのであろう場所のその小屋の扉が、、、閉まり方が甘かったのか、その日の強風のせいで扉が全開放されてしまっていました。
その扉の内側には大きな張り紙がしてあって、そこには大きな文字でこう書かれていました。
「ここから先は、夢の国」
ファンタジーの世界で見るリアルは・・・
シュールでした。
その刹那。
ほんの数秒だったと思いますが、その張り紙を凝視した直後、彼女と私はほぼ同時に駆け出していました。
バタン!
と、2人で扉を大急ぎで閉めて、まわりに誰かいないか鋭い目つきで確認します。
「これは、、、見せたらあかんやつやと思う。」
「うん、そう思う。」
多くの人がパレードに夢中になっていたので、おそらく事なきを得たことと思います。
それが、私がこの日、いえ、むしろ今までの夢の国体験の中で一番感動した瞬間でした。
夢の国の裏側にはその国を支える多くの人がいて、こんな風に細部にいたるまでたゆまぬ努力をされているのだ、と。
自分はそういう人たちに感動を覚えるタイプなんだと、はっきり自覚した瞬間だったと思います。
ファンタジーの世界の門番は、実はリアリスト達なのかも・・・しれません。
それ以降、夢の国の楽しみ方が変わっていきました。一般的な楽しみ方ではないかもしれないけれど、、、
めっちゃ楽しんでいる同行者たちのノリについて行けず、テンション低めの自分が雰囲気を悪くしていないか、と気を使いながら、楽しいフリをするのにも少し疲れている・・・
のに、一緒に行かない選択肢をとらない・とれないリアリストさん・・・
がいらっしゃいましたら、、、ちょっと視点を変えると、意外と楽しめたりすることもあったりしちゃったり
あの日、夢の国から帰る途中の電車の中で、彼女がボソッとつぶやきました。
「なんか・・・感動したわ。」
「うん、私も。」
遠い昔の、夏の夜の夢のお話しです。
リアリストも感動する「夢の国」がここにはあります。
今年も多くの人がこの国を訪れることでしょう。
みなさま、どうぞ、素敵な夢を ☆彡
●吉祥寺 このはな咲や●