タイトル 伊豆の踊子(1963年版)

公開年

1963年

監督

西河克己

脚本

三木克巳 西河克己

主演

吉永小百合

制作国

日本

 

「伊豆の踊子」と言えば、川端康成が執筆した短編小説で代表作とされる。自分自身が19歳の時に伊豆を旅した実体験を元にしている。ちなみに踊り子の名前は薫ではなく加藤たみとされている。

言わずとしれた名作中の名作だけに、新潮文庫だけで約340万部を数え、日本人に親しまれている名作と言える。それだけに今までに6回映画化され、ヒロインである踊子・薫は田中絹代から吉永小百合、山口百恵まで当時の人気絶頂のアイドル的な女優が演じているのが定番。山口百恵を最後に現時点で映画化されていないが、テレビドラマとしてはその後もその時の人気アイドル女優が演じ続けている。

吉永小百合を愛でる映画。それだけにどの表情も魅力的

 

その中で、本作に関して映画撮影を見学した川端康成は、踊子姿の吉永小百合に〈なつかしい親しみ〉を感じたという。原作で薫は14歳だが17歳に見えるほど大人びていたというが、映画公開時の吉永小百合は18歳だから撮影時は17歳だったはず。それだけよく似ていたのだろうか。

本作は原作と異なり、冒頭のラストが現代となっていて、成長して大学教授となった主人公が教え子からフィアンセとしてダンサーの少女を紹介されるところから始まり、その部分がモノクロで描かれている。

上記の通り映画の冒頭で、大学の教授をやっている川崎が、教え子から結婚の相談をされ、若い頃の伊豆での体験を思い出すところから始まる。この時川崎を演じるのが名優宇野重吉。髪型といい顔の形と言い、川端康成そっくり。そして教え子の大学生を吉永小百合主演映画の常連の浜田光夫。そしてそのフィアンセのダンサーを吉永小百合が演じている。

伊豆を旅する一高生の川崎は、途中で旅芸人の一座と連れになった。その中に、可憐な少女・薫がいて川崎は彼女に心惹かれる。一方、薫というその少女も川崎が気になる様子だった。

原作ではこの時の薫は14歳で、川崎は20歳。今なら警察案件だが彼女は17歳位に見えたとある。また当時の一校は卒業後、大半が東京帝国大学に進める超エリート校。大学進学率が5%程度だったその頃だけに、一般庶民には雲の上の存在だった。若い頃の川崎を高橋英樹。一座の長の栄吉を大坂志郎。

お茶目さ爆発の大阪四郎

 

湯ケ野に着いた夜、一座は地元の名士のお座敷に呼ばれカオルも同行しるが、川崎は碁をしながらもそれが気になって仕方ない。ちなみにその座敷にいるのが郷鍈治。強面だがどういう訳か二枚目的な役どころで、ラストで重要な役割を演じる。

翌朝、薫が風呂から全裸で川崎に手を振るというあの有名なシーンがあるのだが、無論天下の吉永小百合がヌードを見せるはずもなく、肩から上だけ。それでも当時のサユリストたちは生唾を飲み込んだことだろう。私も最初に見た時は「カメラ、下に振れ!」と思わず怒鳴ったものだ。

その後1日出発をのばすという一座と行を共にした川崎は、栄吉と一緒になり彼から身上話を聞き薫は彼の妹だと知る。その事から川崎と一座は急速に親しくなり、薫から下田で一緒に映画を見る事と、そのまま大島まで同行する約束をさせられるが、前述の通り一校生と旅芸人が一緒に旅をすることは、当時としてはかなり異例の事。薫の母は彼女が川崎を慕い始めている事に気が付いていた。

下田へ着くと、川崎は薫との約束を守るため、映画に迎えに来るが映画に誘ったが、母親強引移お座敷を入れてしまう。所詮叶わぬ恋と、気が付いていたのだった。川崎は急に東京に戻る事になり一座にあいさつに来た。翌朝早く、栄吉は川崎を見送りに来たが薫の姿はない。彼女は途中で暴漢に襲われていたのだった。その時、初日のお座敷で知り合った人足頭がやってきて、薫の窮地を救う。そして「心残りないように見送れ」と言い残し立ち去る。この時の郷鍈治はカッコいいったらありゃしない。急ぎ港に駆けつけたが、船は出た後だった。それでも力の限り手を振る薫。そしてそれに気が付いた川崎も、必死に手を振るのだった。

原作を読むと主人公はかなり弱っちい印象だが、本作では高橋英樹だけに男らしくてかっこよく描かれている。原作だと浜田光夫の方が似合っている気がするが、新味を出したかったのだろう。実際に浜田・吉永コンビの映画は1ヶ月に1本のペースで封切られる年もあり、ほぼ1年じゅう顔を合わせていたという人気っぷり。

ただ、現代のパートで吉永小百合が演じるダンサーは、結局最後まで川崎とじかに顔を合わせる事は無く、遠目にいるだけ。この部分を膨らませると、もっと深みのある作品になったと思うので、ちょっと残念な気がする。

とは言え本作は吉永小百合を愛でる映画。そして監督もその期待に見事にこたえている。本作での彼女の可憐さは目を見張り今見ても超絶可愛い。ある意味「アイドル映画」の教科書ともいえる映画だけに、あまり余計な事はしない方がいいのだろう。映画ファンとしては、ちょっと残念だが。