タイトル リンキング・ラブ

公開年

2017年

監督

金子修介

脚本

長谷川隆、金子修介

主演

田野優花

制作国

日本

 

映画comには「「デスノート」前後編の金子修介監督が萩島宏の同名ネット小説を実写映画化し、」とサラっと書いてあるが、事情はもう少し複雑で、この萩島宏というのはアパレルのアイア株式会社の名物社長。こうした立志伝中の人物にありがちだが、かなりワンマンで自分が執筆した「Linking Love」を元に脚本を自分で書いてきて、映像制作会社のシネムーブに映画化を依頼したもの。金子監督はその脚本を読んで「とても脚本と呼べるものではない」と、自分と長谷川隆で一から構想を練り直して脚本にしたものという事。この段階でSFだけではなくファンタジーの要素も加味されることになった。

映画製作も荻島の個性が出ていて、自分が全て仕切るタイプ。ただ、それは悪い事ばかりでもなく、他の映画だとプロデューサーが複数いて、監督が折衝すると一人ひとり説得しなくてはいけないが、本作の場合1人だったので楽だったとのこと。ちなみに企画プロデューサーの秋元伸介は秋元康の実弟で、秋元康事務所の取締役をやっている。

こうした少々異質な経緯をもって誕生したせいか。あるいは配給が畑違いのBS-TBSだったせいか。結局劇場公開は東京での2館のみで終わったようだが、面白いだけに何とも残念。

時は2017年だか現代となるが、タイムスリップモノだとこれが重要になったりする。主人公は大学2年生の真塩美唯はAKB48のオーディションを受ける程アイドル志望。しかし、落選するが、方向転換してラップバトルに臨むもこちらも相手から自分のラップの欠点を突かれ決勝で敗退。落ち込んで家に帰ると、母の由美子が婿養子でアニメオタクの父・健一郎を2人で共同経営する大手アパレル会社から解任して家を出ていくところに遭遇する。このままだと離婚に至るかもしれない。途方に暮れる美唯だったが、腹立ちまぎれに始めたラップに、部屋にあったランプが反応。見るからに怪しげなランプの精が現れる。もっとも本人は守護神と言っているが。そして3つの願いをかなえると、これまた定番の展開。のはずが守護神は早とちりで彼女を1991年にタイムスリップさせてしまう。そこは、バブル経済がはじけて間もない日本だった。私は実体験者だが、はじけた直後はしばらくは何という事はなかったが、時間の経過とともにじわじわと思い知ることになる。特に給料袋を開くたびに。

3人の距離感を現す絶妙なカット

 

大学のミスコンの控室に連れ込まれた美唯は、そこで大学時代の母・由美子と父・健一郎に出会う。この二人の付き合っているようなないような微妙な関係がなんとも歯がゆいが、それもこれも健一郎はアイドルに夢中なアイドルオタク。由美子は彼を振り向かせようとするがあまりうまくいっていない。このままだと自分が生まれないと思った美唯は、26年後の離婚を阻止するために、アイドルオタクなら由美子をアイドルにしてしまえと作戦を練る。

最初はココリボンという、どこかで聞いたことあるアイドルグループを引っ付けたようなアイドルに扮させるが、これは失敗。しかも、1991年に置き忘れた美唯のスマホから着想を得てAKBそっくりのグループを生まれ、それが回りまわって美唯の両親は離散に追い込まれてしまった。ちなみに元ネタと思われるCoCoは羽田惠理香や三浦理恵子で有名。一方のribbonは永作博美を生んだことで有名。

そこで美唯は91年に戻ると、今度は由美子を中心にAKB48そっくりのグループを結成させ、両親を引っ付けようと画策する。

本作、粗筋を一目でわかる通り「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のパクリ。ただ、コンセプトのみで内容はかなり異なるし、劇中の台詞で「あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいに」というのがあるので、一応オマージュと言えなくもない。今のところ抗議の類は来なかったようだが、もし本作が大ヒットしていたらややこしい事になっていたかもしれない。本作で配給会社がしょぼかったのは、そうしたリスクを回避したのかもしれない。

そして粗筋をよんでもわかるとおり、本作ではタイムパラドックスが都合よく解釈され、あの状況だと美唯が生まれている可能性は低いのに、ちゃんと現代に戻れたりする。その件に関して金子監督は、「SF的に都合が悪くなるので魔法というファンタジーを加えた」と話していた。確かに「魔法ならしょーがない」となるが、ここが本家の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と異なるところで、、抗議が来ても「こっちは魔法です」とかわせるだろう(自信はないが)。もっともD社から抗議が来たら、どうなるか分からないが。

ただ本作最大の見どころはそこではなく、劇中でたっぷり長尺を使って描かれるAKBのヒットメドレーと畑違いの女優たちによるAKB歌謡ショー。林田サチ江役の眞嶋優によるとかなり厳しいレッスンを受けたようで、一応本作では女子大生という設定だがそれだけに醸し出されるお色気は本家以上。主演の田野優花は元AKBだけに別格的なうまさでグループを引っ張っていくが、これが本物のAKBが素人チームを何とかみられるレベルに指導しているようでなんとも面白い。

そして本作の骨幹にあるのはアイドル文化論。80年代のアイドル黄金期から冬の時代の90年代。その後21世紀を迎えたあたりからモーニング娘。そしてAKB48の登場でアイドルは一気に花開くようになる。その冬の時代に後に絶頂期をむかえるアイドルグループ(のパクリ)を登場させ、ファンの関心を向けさせて同時に両親を引っ付けようという、やや強引なアイデアが斬新だ。流石自他ともに認めるアイドルオタクの金子修介。彼でなければ、本作はまとまらなかっただろう。とは言え本作はアイドル映画ではない。しかし、アイドルを描いた傑作映画ではある。