タイトル フォールガイ

公開年

2024年

監督

デビッド・リーチ

脚本

ドリュー・ピアース

主演

ライアン・ゴズリング

制作国

アメリカ

 

本作は、80年代にアメリカで放送され人気を博した、賞金稼ぎを題材としたテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」の映画化作品。正直全く覚えていなかったので調べてみると、日本では日本テレビ系の水曜ロードショウでパイロット版を放送後、第1シーズンを日曜夜10時半(つまり「チャーリーズエンジェル」の枠)で放送。その後第2シーズンが深夜に放送されたとあるので、あまり人気は出なかったようで、全く見ていなかったのかもしれない。

一応調べてみると、ハリウッドでスタントマンを生業とするコルト・シーバスは、副業としている代理店から依頼を受け保釈後に逃亡した人々を連れ戻す賞金稼ぎの仕事を甥のホーイ、助手のジョディと共にやっていたが、その際起こるトラブルに果敢に立ち向かう姿を描いた痛快アクション、という事だそうだ。この情報から判断すると、主演の名前がコルト・シーバスでスタントマン。ヒロインがジョディという以外、あまり共通点はない。本作はかなり改変が行われているようだ。アメリカでの興行成績は大爆死とまではいかないものの、振るわなかったというがこの改変も影響があったのかもしれない。これほど変わっているのなら、全くオリジナル作品として作ればよかったと思うが、何か権利で引っかかるものでもあったのだろうか。本作の出来は決して悪くないだけに、普通にライアン・ゴズリングとエミリー・ブラント主演で、デビッド・リーチ監督によるラブコメ・アクションだったら十分に観客を呼べるはずだ。

アクション映画の大スターのトム・ライダー。実は彼のアクションは腕利きのスタントマンであるコルト・シーバスが演じたもの。彼は数々の危険なスタントをこなしてきた。そんなある日、撮影のジョディと恋仲で撮影が終わったらデートに誘っていた。こんな分かりやすいフラグは今どきないと言う位完璧。案の定、直後にやり直した落下のスタントの失敗によって心も身体もダメージを負い、引退しジョディとも連絡を絶ってしまう。まあ、死ななかっただけ儲けものか。ハリウッドセレブは、たいてい自分専用のスタントマンを抱え、度々SN等で親密さをアピールしているが、このトムが撮影に来ない事もたびたびで、コルトへの敬意も全く持っていない等、今時珍しいほどのステレオタイプの正真正銘のクズ野郎。だから、観客は冒頭の事故も裏があると薄々感づくことになる。

18ヶ月後、レストランの駐車係をしているコルトの元に、オーストラリアのシドニーで撮影が進行しているトム主演のアクション映画『メタルストーム』の撮影に参加して欲しいと、プロデューサーのゲイルから復帰の要請が舞い込む。最初は難色を示していたコルトだったが、かつての恋人ジュディの監督昇進第1作であることを知り、彼女への未練から参加を決意してシドニーに飛ぶ。この辺りの情けなさが嫌味なく出せるのがライアン・ゴズリングの良いところ。

ところがこの話はジョディにとって初耳。コルトが現場にいるのでブチギレ、衆人環視のもとで二人は痴話げんかを始める。楽屋袖でやれば盛り上がるところなのだが、ここはちょっと引いたところ。まあ、周りで宇宙人の被り物をしているエキストラがうんうん頷いているところは笑えたが。

とは言えそこは伝説のスタントマン。ブチギレ気味のジョディのハードル上げの要求にも難なく答え、次第に二人もよりを戻しかける。しかし、ゲイルにはもう一つコルトに頼みたい事があった。それは現地で行方不明となったトムを探すこと。「警察に頼め」というコルトの正論に「警察は駄目」と対面を重視するゲイル。恐らく観客の多くは「それなら探偵に頼めば?」と思うところで、これには何か裏があると冒頭の事故シーンに続いてアラームが鳴り響いた事だろう。案の定、なんやかんやあってコルトようやくトムの行方をつかみ部屋に踏み込んだら、そこには氷に使った男の死体が。それからなんやかんやあって、その死体がコルトに代わるスタントマンのヘンリーであることが判明する。

見ているとひどくストーリーがぶつ切りな感じがしたが、監督がスタントマン出身のデビット・リーチだけに、まずやりたいスタントを決めてそれにストーリーを絡めるという手法を使ったのだと思う。それだけにコルトがトムの部屋にやってくる件は、暗証番号を知っているなら普通に玄関から入ればいいし、その後のイギーとの刀を使ったアクションも随分長尺が使われているが、物語上全く必要はない。部屋に入ったら、彼女が一人で寝ていたでも十分成り立つし、そこにちょっとしたお色気要素も入れる事は出来たはずだ。

デビット・リーチは、本作でスタントマンへのリスペクトをまず描きたかったのだろうから、やれる事は全部やりたかった。そこでちょっと歪な構成となってしまったのだろう。本作はトムを巡るサスペンスと、コルトとジョディの恋の行方の二本柱がが物語の核となっているが、肝心のサスペンスは、ミスリードも特にされていないから早く観客に分かるだろうし、恋愛の方もこちらも早い段階で二人が良い感じになるので、二人がどうなるのかというハラハラドキドキ感はあまりない。二分割シーンを提案され、画面が二分割になっているこてこての演出は、逆に微笑ましさを覚えたが。

トムの部屋を警察が調べたら銃撃戦があったのはバレバレだし、港であれだけ派手な銃撃戦があれば、すぐに警察に通報が行くはずだがそれも無かったり、この辺の描写はがばがば。

それに最後の自白タイムも、スタントが優先になっているのであまりうまい手法とは言えない。それに物語自体、巨大な陰謀があるわけではなく、ただヘタレのハリウッドセレブの後始末という、ちょっとしょぼいのもどうかと思う。とはいえ、ただのスタントマンが悪人を殺しまくっては、ちょっとまずいだろうけど。

ただつまらない映画かと言えばそんな事もなく、2時間強と少々長尺だったにもかかわらず、最後まで面白く見る事が出来た。それもこれも本作にみなぎるスタントマン賛歌が、映画ファンの心を熱くさせている。中盤のシドニー街中のカーアクションなど、「どうやって撮っているんだ!メイキングが見たい!」と思うほど凄い。そしてエンディングでしっかり見せてくれるのもいい。

そして出演者の演技も申し分ない。ライアン・ゴズリングはこうした一寸哀愁が漂うナイスガイははまり役だし、最近「クワイエット・プレイス」等の強くて戦う女がはまり役のエミリー・ブラントが意外とラブラブモード全開で可愛らしかったりと、意外な一面を見せるところもある。もっとも彼女は終盤でトムのボディガードを一人、殴り倒しているが。アーロン・テイラー=ジョンソンのクズなハリウッドセレブも面白かったし、ライアン・ゴズリングと並ぶと、本当によく似るようにメイクしている。そしてラストのあの人のカメオ出演には、くすっと笑ってしまった。いやあの人でこの映画を作ったらどうだろうか。多分コケるだろうけど。