タイトル 曲がれ!スプーン

公開年

2009年

監督

本広克行

脚本

上田誠

主演

長澤まさみ

制作国

日本

 

今人気の劇団ヨーロッパ企画により2000年12月に初演を迎えた「冬のユリゲラー」を、2009年12月に「曲がれ!スプーン」と改題して再演された演劇を映画化したもの。「踊る大捜査線」シリーズで知られる本広克行が監督を務め、主演は長澤まさみが演じる事になったため、演劇版ではわき役だった桜井米を主役に据える改変が行われた。

長澤を主演に迎えた事から物語に華やかさが生じ、ラストに超能力者たちが、彼女の為に一肌脱ぐことに一定の説得力を与えている。そりゃあ誰でも、長澤まさみの為なら危険を冒すだろう。逆に言えば、よく出てくれたな~と思ってしまうが、長澤まさみは時々驚くような役をノリノリで演じたりするが、本作も結構楽しそうに演じている。

幼い頃、潮干狩りの最中にUFOが墜落する(と本人は思っている)現場を目撃して以来、元から素直な性格だったこともあり無条件で超常現象を信じるようになった桜井米。テレビ局に入った彼女は、超常現象バラエティ「あすなろサイキック」のADとして奮闘していたが、現れる超能力者はみんなガセばかり。視聴者からの情報を頼りに超常現象やエスパーを探す番組企画の担当を任される事になった米は、ディレクターから「本物が見つかるまで帰って来るな」との叱咤激励を真に受けて、日本中を真の超能力者を求めて東奔西走する事に。しかし、どの情報もインチキばかりで、落ち込む米が最後の取材として、何でも通り抜けられるという男と待ち合わせの為に、「カフェ de 念力」という喫茶店に向かう。

東奔西走する米がゆく先々にインチキに出くわすシーンがオープニングで、ここで佐々木蔵之介がカメオ出演。他に松重豊ら寺島進が出演しているが、寺島は映画を主に活動していた頃で、ようやく知名度が上がり始めたあたり。松重が本格的にブレイクする「孤独のグルメ」に出会うのは3年後で、二人ともこの頃はまだ知る人ぞ知る程度。

その「カフェ de 念力」では毎年クリスマス・イヴになると本物の超能力者達がクリスマス・パーティを開き、普段隠していた超能力を存分に披露する事が恒例で、今日も超能力者たちが集まっていた。ただみんな能力は微妙で、あまり実生活に役立ちそうもないモノばかり。マスターだけは一般人で、彼が超能力者が集う場所を提供したのは、かつて命を助けられた超能力者がいつか来てくれることを夢見て、店名を「念力」にしていた。マスターから「今日は新顔が来るから」と知らされる一同。そしてマスターはちょっと店を後にする。新顔を迎えに行くためだったが、その件は詳しく伝えていない。何かあると思ったら、そこに一人の、グラサンをはめて勿体つけた感じの男が入ってくる。そして彼の時だけ、マカロニウエスタン風のBGMがかかる。超能力者たちは「彼が新顔だ」と思い招き入れ、持っている超能力を披露する様に迫るが、彼は勿体つけているのかなかなか披露してくれない。

そこで、みんなが持っている能力を披露するが、だんだん男の顔色が悪くなっていく。実は男は、櫻井米と待ち合わせをしている自称超能力者で、ただ細い隙間を抜けられるだけの超能力者でもなんでもない男。その事に気が付いた超能力者たちは、慌てて取り繕うとするが、そこにマスターが連れてきた瞬間移動男が現れ、彼らの正体がばれてしまう。しかもそこに、桜井米が現れ、“壁抜け男”の取材を開始してしまう。何とか早く取材を終わらせ米を追い出そうとするが、透視男が米の名刺入れの裏に蜘蛛の様なものがへばりついている事に気が付く。実はここに来る前に、米は毒蜘蛛に噛まれても平気という男の取材をしていたのだ。このまま放っておけば、米は毒蜘蛛に噛まれてしまう。かくして超能力者たちは、そのしょぼい能力を駆使して米を救うべく奮闘する事になる。

劇団ヨーロッパ企画の舞台が基になっているため、テンポが良く、またキャラクターの描写の濃密で、すらすらと見る事が出来る。

 

ストーリーは、これもヨーロッパ企画らしく、透視で毒蜘蛛思ったのが、名刺に書かれた「米」という漢字だったり、壁抜け男と超能力者たちの話がかみ合っていないのにも関わらず、お互いの思い込みで物語が進み、その後慌てて取り繕うと思ったら、一挙に崩れ去るところなど、ベタな展開ながらも笑えるところだ。また平田満が演じる無条件に超常現象を信じる雑誌編集長と、徹底した否定派の大学教授を演じる木場勝己の二人は、言わずと知れたたま出版の韮澤潤一郎と早稲田大学教授の大槻義彦がモデル。二人のエキセントリックなところを忠実に再現されていたが、劇中で取り上げられるものはいずれもインチキばかりなので、もう少し微妙なものを取り上げればもっとこのパートは盛り上がったはずだ。

終盤で、米の純粋さに打たれて何とか彼女を元気づけようと、人目を忍んで生きてきた超能力者たちが一世一代の大芝居を演じるが、ここもバカバカしくも心温まるものがある。前述の通り、ここは相手が長澤まさみだから、超能力者たちが危険を冒すのも納得がいく。そして、米がテレパシーを逆利用するが、米が超能力者たちに気が付いたきっかけは描かれていない。ここは欠点と言えるかもしれないが、彼女は純粋だがちゃんといかさまと本物の見分けは付く。彼らの怪しい挙動を見て最初から怪しんでいて、テレパシーで手を握られた時、彼女も何らかの感触を得て確信したという解釈は出来る。

演劇版だと桜井米は脇役だったという事で、演劇だとそれでもよかったと思うが、映画になるとそうもいかない。そこで米を主人公にして、なおかつ長澤まさみという大スターをキャストしたのは成功だったといえる。前半の米の件が丸ごとカットされ、かつこの役に他のキャスト同様のあまり有名でない女優が演じていたら、本作の面白さはかなり削がれていたと思う。