タイトル 北斗の拳 実写版

公開年

1995年

監督

トニー・ランデル

脚本

ピーター・アトキンス トニー・ランデル

主演

ゲイリー・ダニエルズ

制作国

アメリカ・日本

 

本作は、日本の東映ビデオと東北新社の共同製作であり、いわゆるVシネマとして制作されたもの。したがって、ハリウッド映画ではなく東映Vシネマのアメリカ版である「Vアメリカ」として作られた。製作費は2億円と言われていて、これはハリウッド映画としては勿論、邦画として見ても大作と呼べるレベルではない。

原作は世界各国でベストセラーとなっている、武論尊と原哲夫の同名人気コミック「北斗の拳」。漫画、アニメ版は「おまえは、もう死んでいる」という流行語も生み出し、社会現象ともいえるほどのヒットを記録し、今なお根強い人気を誇っている。監督は「ヘルレイザー2」のトニー・ランデル。主役・ケンシロウにはイギリス出身の元キックボクサーの経歴を持つアクション俳優のゲイリー・ダニエルズ。彼は、香港映画「シティーハンター」でジャッキー・チェンと共演した他、日本のゲームを基にした「TEKKEN -鉄拳-」や日米合作の「GEDO/外道」に出演するなど、日本と何かと縁のある役者だ。

色々と言いたいところはあるものの、雰囲気自体は悪くないと思う

 

ケンシロウが、日本人俳優でない事がとやかく言われるが、それではこの頃ケンシロウを演じられる日本人俳優がいたかと言われるとちょっと思いつかない。真田広之は30代半ばでゲイリー・ダニエルズとほぼ同年代だが、この頃は既に演技派への転身を図り、アクション映画とは距離を取っていた頃だから、こんなB級企画に乗るとは思えない。その意味では無難な選択だったのか。だからと言って本作が無難という訳ではなく、むしろ主演キャスト以上に様々な問題をはらんでいる映画となっている。なお、私は原作のファンではなく、最初のいわゆる「サザンクロス編」はマンガもアニメも見たものの、そのあとは離れてしまったのでそれほど詳しいわけではないから、どこがどう違うと言った細かいところは分からないので、ファンから見ると頓珍漢な感想を書くかもしれないが、そのあたりはご容赦いただきたい。

外国人キャストにするのは、ユリアの方だったのでは

 

「マッド・マックス」を思わせる荒廃した近未来(本作の元ネタが「マッド・マックス」なのだが)。南斗聖拳の伝承者シンは北斗神拳の当主リュウケンを暗殺し、その伝承者であるケンシロウを倒すと、その胸に北斗七星の傷をつけ恋人ユリアを強奪。皇帝を自称すると「サザンクロス」と呼ばれる都を作り新しい世界を支配線という野望に燃えていた。

私の乏しい「北斗の拳」に関する知識でも、この冒頭部分だけでも突っ込みどころ満載。シンがケンシロウを破りユリアを強奪したのは事実だが、リュウケンを殺したのはラオウ。しかも映画では拳銃でリュウケンを殺している。劇中で拳銃がやたらと登場し、シンの軍団が使っているが、原作では銃器の類はほとんど登場しない。それにシンなら南斗聖拳で戦うはず。原作のシンは悪役だが悪人ではないというポジションで、ユリアもラオウから隠すために逃し、ラオウの追跡を逃れるため、ケンシロウにさえも教えていない。本作のシンは、アメリカのB級アクション映画に登場する小悪党そのもの。

その頃北斗神拳の後継者ケンシロウはシンとの戦いに負け、身体に7つの傷を負わされ、愛するユリアを奪われたことから、秘めたる能力を有しながら絶望し、戦う意欲を失い荒野をあてもなくさ迷っていた。

そんな時、ケンシロウはシンに狙われている町パラダイス・バレーに立ち寄ると盲目の少女リンの目を秘技で治し、シンの手下を倒して町を去るケンシロウ。これを見たバットは助力を頼もうと後を追う。しかし、2人が不在中に町が襲撃されサザンクロスを築くための労働力として、住民たちは取れ去られてしまう。その時発したリンの悲鳴を心で感じ取ったケンシロウは秘めたる能力に覚醒し、シンと戦う決心をするのだった。

リンは原作だと失声症だが、映画では失明していると設定が変わっているが、見る限りそれほど意味のある変更とは思えない。またバットが途中で死ぬのには驚愕。後で生き返るだろうと思っていたら、そんな事もなく終わってしまい再び驚愕。誰か死なないと物語が盛り上がらないという事なのだろうが、それにしてもよくこんな改変を武論尊先生は受け入れたなと感心する。今なら、「セクシー田中さん」以上の大炎上となっていたはずだ。

また北斗百裂拳を初めて披露するところで、特殊効果に頼らず生身でやっているから、相手の胸にぺちぺち当てているだけで盛り上がらないこと甚だしい。それより本作は、ラオウの存在が丸ごとカットされているので、色々と無理が出て、そのしわ寄せがシンの雑なキャラ設定にもろに出てしまっている。

アクションシーン”だけ”は本格的

 

主演のゲイリー・ダニエルズはキックボクシング以外にもテコンドーの黒帯なので、格闘技はお手の物。本作での彼の生身のアクションは素晴らしく、終盤で敵の本拠地の乗り込んでからのアクションは水を得た魚のように切れがあって見ごたえ充分。恐らく「北斗の拳」を意識せずに普通の格闘技系アクション映画として見れば、ここだけは楽しめたはずだ。ただ、ここに至るまでがあまりにもグダグダだし、ラストではあっさりとユリアと再会できるなど、ファンなら激おこ必至のやらかしを数多くやっている。アメリカ側に丸投げしていたのならともかく、渡邊亮徳や一瀬隆重が制作に加わっている以上、原作ファンを意識すべきだと思うが昔から邦画界はこの辺がルーズで、勝手に色々といじくってバッタ品を作り、たまに「変な家」の様な奇跡的な成功を収める事はあるが、たいてい大爆死を遂げるという事を繰り返しているが、いい加減気づかないものなのだろうか。