タイトル アラビアン・ナイト(1942年版)

公開年

1942年

監督

ジョン・ローリンズ

脚本

マイケル・ホーガン

主演

ジョン・ホール

制作国

アメリカ

 

サブ―が出ているし、「バグダットの盗賊」や「ジャングル・ブック」ぽいから、アレクサンダー・コルダ絡みのイギリス映画かと思ったら、純粋なハリウッド映画。ただ、映画のアイデアは「バクダットの盗賊」から得たもので、引き続きサブ―が出演することになった。

「駅馬車」や「暗黒街の弾痕」で知られるハリウッドの名物プロデューサー・ウォルター・ウェンジャー制作による1942年作品のテクニカラー映画で、ユニバーサル初のカラー作品となる。

タイトルからわかるとおり、原作は「千夜一夜物語」でヒロインはその語り手シェヘラザードだが、「千夜一夜物語」ではササン朝ペルシャのシャフリアード王に仕える大臣の娘だったのに対し、本作では人気の踊り子になっている。また、夜な夜な処女妻を殺す暴君シャフリヤール王と結婚したことになっている原作と比べ、本作では最終的にアッパース朝5代カリフ・ハールーン・アッ=ラシード王と結ばれることになるなど、時代も大きく異なり全くの別人。ただ、映画の冒頭で老カリフが娘たちにシェヘラザードの語った物語を聞かせる後世になっていて、またシェヘラザードのいる曲芸団にアラジンやシンドバッドという曲芸師がいるところに、かろうじて近似点がある。

第2次大戦中だけに中東でのロケは絶望的なため、一部はユタ州のコーラルピンク砂丘州立公園で撮影された。

映画は大ヒットし、第2次大戦後の1950年には日本でも公開され、外国映画興行ベストテンの6位に入る程ヒットした。

映画は、ペルシャのハーレムで王様がシェヘラザードの物語を、朗読するシーンから始まる。

ハールーン・アッ=ラシード王は種ちがいの弟カマール・アル・シャーマンのために計られ王宮を追われ、逃げ回る最中に曲芸団の花形美女シェヘラザードと、少年アリに助けられる。カマールはシェヘラザードに恋慕して彼女を追う日にするためにクーデターを企てていたのだが、彼女は助けた相手がハールーンだとは全く知らない。ただ、アリだけはハールーンの指輪から察していた。

カマールはシェヘラザードを迎えに使者を出すが、密かに王位を狙う臣下のナダンは、密かにシェーラザードとその仲間全部を奴隷商に売りとばす。しかしこの顛末が、たまたま現場にいた盲目の物乞いからバレ、関係者を始末して口封じをすると、シェヘラザードを買い取り処分しようとする。しかしその間、シェヘラザードとハールーンは恋に落ちてしまい、彼女が売られそうになると脱出して騒ぎを起こし、ナダンから彼女を救出して逃走する。

ヒロインの、シェヘラザードを演じるのはマリア・モンテス。ドミニカ出身で1912年生まれとあるから、公開時は30歳位。際立って目を引くエキゾチックな美貌により人気を博し、ユニバーサルを中心に活躍したが、「おとぎ話のお姫様の役ばかり」とユニバーサルと衝突。フリーランスとなってヨーロッパに渡り活動していた。その後、ハリウッド復帰が決まった矢先、1951年に39歳の若さで亡くなってしまう。

しかし、彼らはカマールの軍隊に見つかり、カマールの陣屋に連れていかれる。カマールはシェヘラザードと再会して王妃にすると約束するが、既に彼女の心はハールーンになびいていた。一方ナダンはハールーンが生きている事を知り、シェヘラザードにハールーンを逃がす代わりに、カマールを暗殺を持ち掛け彼女は承諾した。しかし、ナダンは川を渡ったところでハールーンを殺す計画だったが、アリはそれを察して、ハールーンの正体を教え曲芸団の仲間たちと共に彼らを追った。

何とかハールーンの救出に成功するが、シェヘラザードによるカマール殺害の時は迫りつつあった。

本作は批評家からは酷評されたものの、興行的には大成功をおさめ、この後ユニバーサルはエキゾチックな映画を立て続けに公開する事になる。その中には「アリババと40人の盗賊」「スーダンの砦」等のように、日本でも公開された映画もあるものの、多くは日本未公開となっている。そしてその後の作品も興行的には一定の成果を挙げつつも評判が良いとは言えないものばかりだ。本作も、シェヘラザードの心の鬱問いが上手く描けていなくて、見方によっては勝ち馬に乗る狡猾な女という見立てもできる。また、カマールの悪役としての描写も不足していて、彼も見方によってはシェヘラザードとナダンにそそのかされた被害者という見方もできる。

出来はあまりよくない本作だが、それでもマリア・モンテスの魅力は異次元レベル。そして、ハールーンにひたすら尽くす実直なアリを演じるサブ―も当たり役過ぎる。ただ、この頃から彼の役はワンパターン化し始めていたが、「ジャングル・ブック」の成功で、その壁を打ち破る事が出来た。この二人の魅力で、かろうじて成功したといっても過言ではないだろう。