タイトル フィスト・オブ・ザ・コンドル

公開年

2023年

監督

エルネスト・ディアス=エスピノーサ

脚本

エルネスト・ディアス=エスピノーサ

主演

マルコ・サロール

制作国

チリ

 

ハリウッド作品でも活躍するチリのアクション俳優マルコ・サロールが主演した、チリ発の武術系アクション映画。

 

映画の冒頭でかつてインカ帝国に伝わるが、スペイン人によってその手引書が奪われ、その後奪還したものの、コンドル拳の伝承者は、密かに技を伝えていたという、伝説のコンドル拳に関する説明がナレーションで入る。

その後、海岸でマッチョなスキンヘッド男と対峙する、黄色い道着を着た若い男。衣装のコントラストが、「ドランゴン・ボール」での初期の孫悟空と似ている様に感じるのは私だけだろうか。しかしハゲマッチョは強く、どうにも勝てない。そこでナンチャッテ孫悟空はやにわに懐から鏡を取り出して、「光が弱点だと何故知ってる」と驚くハゲマッチョに光を反射させその隙に勝利。したかと思ったら、そこで突然空飛ぶ拳法を繰り出し逆転大勝利。「手引書をよこせ」という孫悟空もどきに、「それを持っているのは弟だ」と言い放つハゲマッチョ。このパートが物語のメインで、ハゲマッチョはコンドル拳の正式な継承者だったが、双子の弟にそれを奪われ探し求めていたのだ。

このパートはハゲマッチョがコンドル拳の手引書を持っている勘違いしている野郎や、偶然出くわしたごろつき。そして弟の放つ刺客との戦いとなる。しかし日光が弱点終わりには、ハゲマッチョはグラサンつけるわけでもなく、昼間特にまぶしがる様子もない。たいていの人は、鏡で反射された光が目に入ったら、まぶしくなるはずだが。

もう一つのパートが、冒頭に登場した孫悟空もどきの師匠の話で、彼はかつてコンドル拳の継承者に弟子入りしたものの、師匠は同時に入門した女に継承者を選ばれ、師匠から「お前の拳法はミミズだ」と罵られた経験があり、コンドル拳に複雑な感情を抱く。しかし弟に敗れ手引書を奪われたハゲマッチョ(この時はまだ髪はあったが)をかくまい治療を施す等どういう訳か知っている様子。その為、彼の道場もハゲマッチョの弟の刺客の襲撃で師匠は重傷を負う。ちなみにこの師匠は韓国人らしく、韓国語を話していた。

なんか香港カンフー映画で見た気もする訓練道具

 

最後のパートが、コンドル拳の女伝承者に若き日のハゲマッチョ(繰り返すがこの時は禿げていない)兄弟が弟子入りし、兄だけ入門を許されるものの諦めきれない弟は、陰でこ見よう見まねで修業。それを師匠も黙認している様子。この師匠が入門を許すか否かは「やる気の有無」の様なので、これをやる気と見たのだろう。やがて修業は終わり、ハゲは師匠から手引書をもらうが、その時弟が襲撃。師匠は殺されもハゲも重症を負い、手引書も盗まれる。いやハゲ兄はともかく、コンドル拳を習得していたはずの師匠まで為す術なく殺されるのはどうなんだ?その後、韓国人の武術家に助けられ復讐の機会を着々と狙う。

この女師匠を演じるジーナ・アグアドは、マルコ・サロールの実母。それじゃあ俳優なのか?と思い調べてもさっぱり情報が入らず。英語、フランス語と並ぶ国際公用語なのに、スペイン語の情報は日本では掴みにくいのでご容赦いただきたい。

ワンカットワンカットがこれ以上ない位美しく撮られている

 

まずお断りするが、上記の粗筋は私が見て「多分こうだろう」と組み立てたもので、大筋で外してないとは思うモノのあまり自信が無い。というのも本作は、主人公の復讐の旅とそこに至るまでの回想とが交錯しているし、主人公の女師匠と因縁のある(多分)韓国人の老武術家とその弟子とのかかわりが、尺が80分しかないのに詰め込まれ、しかも全体が9章に別れているからそれぞれは断片にしか描かれていないという、構造的な欠陥を持っている。しかも本作はタイトルに堂々と「前編」と描かれ、この時点で決着がつかない事は確定している。元々は、テレビシリーズを念頭に置いて作ったらしいので、その名残はそうしたところに残っているようだ。それに、本作の作り手は、物語を分かりやすく観客に伝える事に、あまり興味はなかったようで、元はテレビシリーズの企画だった事を含めて、恐らく念頭にあったのはブルース・リーの企画による「燃えよ! カンフー」だったのではないかと思う。

分かりやすい映画ではなく、しかも前編で決着も付いていない。更に哲学的モノローグが多く、単純なアクション映画を期待すると肩透かしを食らう内容であるにもかかわらず、本作のRotten Tomatoesでの評価は批評家が92%に、観客が77%と意外なほどに高評価。もっともレビューは相当少ないから、こうしたが血アクションに興味がある人しか見なかったといえると思う。実際私も見ていてドラマパートになると、「俺は今、何を見ているんだ」と思うことしばしばで、それでアクションシーンが始まるとぐっと引き付けられるという事の連続だった。

ザロールや共演者は本物の武術の達人たちで、劇中での彼らが実際にアクションシーンをこなしている。VFX等の特殊効は最小限に抑えられており、カメラワークでゴマ核といった小手先の技も使われていないので、本作でのアクションシーンは見ごたえ充分。劇中で入る哲学を思わせる語りや内面描写など、およそ武術系アクション映画らしからぬ内容だが、そう言った映画が好きな観客には確実に刺さると思う。ただ、単純なアクション映画が好きな人は絶対に向かないので、くれぐれもお間違いなきように。