タイトル ライド・オン

公開年

2023年

監督

ラリー・ヤン

脚本

ラリー・ヤン

主演

ジャッキー・チェン

制作国

中国

 

長らくアジアアクションスターの頂点に君臨し、今でも根強い人気を得ている香港のアクションスター・ジャッキー・チェン。本作は彼の初主演から50周年の記念作品でもある。

最近、台湾問題や、香港問題などの政治的な問題に積極的に発言している事もあって、香港でのジャッキーの評判は芳しくない。それもあからさまに中国共産党寄りの発言なので、幻滅を覚えたファンも多い。どのような思想信条を持とうと、それは本人の自由なので、その事でジャッキーを批判するつもりはないが、誰も特定の思想信条への批判をしてはいけないというのは、自由で開かれた社会ではない。したがって、その思想信条の表明によって受ける批判にも向き合う必要がある。

もう一つ、最近のジャッキーの評判を落としている出来事は、不倫相手の女優エレイン・ン(呉綺莉)との間に生まれた娘、エッタ・ン(呉卓林)に対してかなり冷たい態度な事もあるだろう。エッタ・ンが同性愛者なので怒って絶縁したとも報じられたこともあるが、本人によると「生まれて一度も会った事が無い」という事なので、それだけが原因という訳ではないようだ。その一方で中国本土ではそれらの発言もあってか、いまだに高い人気を誇っている。

興行成績を見ると、3600万ドルとあるのでまずまずといったところか。ただ、これも大半は、中国本土で得られたものであるようだ。

主人公のルオ・ジーロンはかつてはスタントマンとして数々の伝説を生んでいたが、8年前に撮影中に生死の境をさまよう程の大怪我をした事から次第に落ちぶれ、今では撮影所の片隅に住み、愛馬のチートゥと観光客相手に曲芸や写真撮影をして日銭を稼ぐ日々。大怪我が原因で、分かれた妻や一粒種のシャオパオの面倒を見る事が出来ず、元妻の葬式にも出る事が出来なかったことから、ジャオパトとも絶縁状態だった。

そんなある日、チートゥの元の持ち主のワン社長が亡くなり、会社の債務整理をしていたらチートゥが会社所有物である証拠が出てきたことから、差し押さえられる事になる。弁護士を雇う金が無いジーロンは、今やアルバイトをしながら大学の法学部に通うシャオパオを頼るが、これまでのいきさつから拒絶されてしまう。

リウ・ハオツンは現在26歳。70歳のジャッキーの子供だとすると...

 

そんなある日、借金取りのダミーらとの小競り合いになるが、その様子を撮られSNSで拡散されたことから、かつての弟子で、今や大スターとなっているユェン・ウェイから新作映画のスタントマンとしてチートゥと共に出てほしいとのオファーが舞い込む。また、シャオバオも父の苦境を知り、恋人で新人弁護士のルー・ナイホァに助力を求める。

トラブルはあったものの、スタントマンとして復活する事が出来、法律の知識を生かしシャオパオが代理人として父とチートゥをサポートする事になる。

ルーの両親との会食でジーロンは失敗する。ャオパオの機転で何とかしのぐ事が出来たが、この件で喧嘩してしまう。しかし、その後のスタントでジーロンが怪我をしたことから、保険証を探しに家探しをすると、幼いころ面会した時の映像が出てきた。父がこれを繰り返し見ていたという事を知り二人は仲直りする。また有利な証拠も出てきて目途が尽きそうになる。そこでジーロンはチートゥともどもスタントを引退する事にするが、ユェンから大きな仕事の依頼を受ける。悩みつつもその仕事を受けてしまった事から、再びシャオパオと喧嘩になる。それでもスタントマンとしての意地から、チートゥと最後の仕事に向かうのだった。

劇中劇にも手を抜かない

 

本作が公開される前、疎遠になった娘と関係を修復する内容に、実際の娘にした仕打ちと重ねて批判されることが多かった。確かに最悪のタイミングだったことは否めない。確かにか報道されたことが事実だったら、ジャッキーが批判されるのは当然だと思う。ただ、映画とプライベートは別だから、そこはしっかり区別されるべき。

映画として見ても、本作は色々と欠点を持っている。肝心のチートゥの所有権に関して、劇中でほとんど描写はなくすべてルーに丸投げ状態。ルーと協力してその頃の顛末を知っていそうな知人に話を聞くシーンがあってもいい。そこでルーと次第に心を通わせていく展開なら、ダレ気味の中盤が引き締まったはずだ。本作は中盤がだいたい同じような流れなので、かなり単調に感じる。そして、ジーロンとチートゥ、そしてシャオパオとの心温まるシーンが始まると、いかにもな音楽が流れてくるので、これも見ていると飽きが来る。そしてラストシーンもかなり出来過ぎで、これなら最初からそうすればよかったじゃん!と少々引いてしまう。

しかし、本作にはそれらの欠点を補って余りある魅力がある。

主演50周年記念作品だけにリーを鍛えるシーンを始め、随所にこれまでのジャッキー映画のオマージュに溢れていて、ファンならそれを見つけるのも楽しみとなるだろう。また中盤で、かつてジャッキー主演作のNGシーンを、ジーロンが演じたスタントとして紹介しているのもファンにとっては嬉しいところ。また借金取りのダミーたちとのアクションは、かつてジャッキーが得意とした、そこいらにある小道具を使ったコミカルなアクションで、これもファンとしては嬉しいところ。

そして何よりも良かったのは、チートゥとシャオパオとの心の交流。音楽のうざさや演出のあざとさには辟易するが、どうしても見入って落涙してしまったほど心温まるシーンだ。

従って本作は、アクションよりも、ヒューマンドラマに力を入れている。そして、その端々に主人公が長きにわたって情熱を注ぐスタントマンとしての矜恃も挿入することで、愛すべき映画馬鹿の主人公のキャラを引き立たせている。

ジャッキーももう70歳。昔のようにはいかないと思うが、これからも彼のアクション映画を見たいと思わされる映画だった。正直残念な面が目立つだけに、陳港生としては好きになれずむしろアンチになりかけていたが、こうした映画を見ると映画スター、ジャッキー・チェンは嫌いになれないと感じる事になった。

 

香港映画のスタントマン居ついてはこの「カンフースタントマン 龍虎武師」が詳しい。当時のスタントマンは一種の徒弟制度で、それぞれ師匠の下に大勢の弟子がいる状態だった。そこで、よそが凄いスタントをしたと知れ渡ると、「うちはもっとやるぜ!」となって、競争意識丸出しとなる。それが香港映画の凄まじい今でのアクションを生むことになる。無茶ぶりに弟子が「出来ません」というとサモ・ハン・キンポーは「俺ならできるぜ」と言ったとか。ちなみにジャッキーもサモ・ハンもスタントマン出身だ。