タイトル 美女のはらわた
公開年 |
1986年 |
監督 |
小水一男 |
脚本 |
小水一男 |
主演 |
小沢めぐみ |
制作国 |
日本 |
経営不振に陥っていた日活の起死回生策として、1971年から登場したロマンポルノは、確かに一時は日活を救うことになる。しかし、80年代に入ると客足が遠のき始める。追い打ちをかけるように、81年にはアダルトビデオが登場し、日活は客を取り戻すべく様々な策を打ち出すことを迫られる。本作はそうした流れで誕生したものとなっている。
当時、「日本初のスプラッター・エロスムービー」と銘打たれた「処女のはらわた」に続く、ポルノとスプラッターホラーの合体作の第2弾。第2弾が作られたところを見ると、まずまずの成果だったのだろうが詳しい事は分からない。
余談だが、鬼畜の限りを尽くすヤクザの組名が「一山会」であるのは、当時激しい抗争を繰りひろげていた、山口組と一和会からとっている。監督は“ガイラ”となっているがこれは小水一男の別名。由来は容貌が特撮映画「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」に登場する怪獣ガイラに似ていたことによるらしい。本人の顔写真を見て見たが、確かに似ているといえば似ていなくもない。
薬を撃たれ売り飛ばされる寸前に、ヤクザから逃げ出してきた少女を助けた女医。しかし、少女は彼女の目の前で飛び降り自殺してしまった。その事に自責の念を抱いた女医は、少女が話した断片的な情報を基にヤクザを特定し復讐を企てるが、逆に彼らに捕まり、凌辱の限りを尽くされた上に少女に打たれたものと同じ薬を打たれ、死んでしまう。このクルリというのが、普通の麻薬ではなく、かなりヤバい新型のものらしい。ヤクザは彼女の死体を捨てようとするが、同時に殺された彼女の協力者の死体と融合し、怪物に変身する。かくして、怪物として蘇った女医による、やくざへの復讐が始まる。と言った粗筋となる。
前作の「処女のはらわた」は、明らかにアメリカのスプラッター映画にヒントを得て、スラッシャーヒーローが登場したが、それに対して本作は、ヤクザに殺された女医が、もう一人惨殺された男と融合して妖怪に変身。自分を殺した相手に復讐するという、「四谷怪談」に代表される日本古来の怪談に近い。同じような作品にしては、面白くないということで、変化を付けてきたのだろう。実際物語もメリハリが聞いているし、核となる登場人物もいる。そしてきっちりと落ちを付けるなど本作の方が出来は良い。ただ、手放しでほめられない面もある。
主演の小沢めぐみの艶技は良いものの、肝心の演技は今一つでセリフも棒読み感が否めない。それに、これは他のポルノ映画全般に言えるが、他の出演者も50歩100歩でヤクザらしい凄みを感じないし、組長の情婦の石井絢子にも、あまり艶っぽさは感じない。
そんな中、劇中圧倒的な存在感を放っているのが、やくざ役の吉沢健。常にサングラスをかけて表情はうかがえないが、そんな中にも極道としての凄味がにじみ出て、街で見かけても絶対に声を掛けたくない感が半端ない。冒頭でひたすら黙々とスタミナ料理を食するが、それは本人がインポであるということ後に明らかとなる。凄味だけでなく、哀愁を漂わせる辺りは流石としか言いようがない。
やたらエロシーンが多くて、ストーリーがおざなりだった前作に比べるとエロシーンは控えめな反面、ゴア描写はこれでもかとばかりにてんこ盛りで、前作では身体に泥が似られている程度だった怪物が、本作では特殊メイクできっちりと作られるなど今見てもよくできている。ただ、成人映画館に足を運ぶお客様にニーズにこたえていたのかと言えばちょっと疑問。その意味では、当時の日活の混迷振りが垣間見える様に感じる。そのおかげで、今でもホラー映画ファンに愛される作品となっているのだが。