タイトル ゴースト・オブ・マーズ

公開年

2002年

監督

ジョン・カーペンター

脚本

ラリー・サルキス ジョン・カーペンター

主演

アイス・キューブ

制作国

アメリカ

 

ジョン・カーペンターの代表作と言えば「ザ・フォッグ」や「遊星からの物体X」等とともに、初期の傑作として欠かせないのが「要塞警察」。閉鎖された警察署が大勢のギャングに襲われ、後処理をする為残された僅かな警官と収監中の容疑者が立てこもるといった内容だが、そのシンプルな構成ゆえいまだに人気がある。本作は、その「要塞警察」のSF版と言っていい内容だ。興行的には、アメリカでは公開2週間で上映打ち切りになる等、大爆死となったが、現在ではそれなりに評価されるようになっている。ちなみに本作は、公開初日にホラー作家で、カーペンターファンである友成純一先生のトークショー付きの回を見たのだが、散々本作を持ち上げて去り際に「でもヒットしないと思います」と捨て台詞を残し、会場をずっこけさせたことがあった。まあ、ヒットしなかったけど。

当初、ヒロインのメラニーは、ミュージシャンのコートニー・ラブが予定されていたが、怪我のために降板することになる。もっとも、後に発売されたDVDのオーディオ・コメンタリーでカーペンターはその経緯について、お茶を濁しているので、何か他に理由があったのかもしれない。その為撮影2週間前、ナターシャ・ヘンストリッジが起用される。その為、演技もアクションもほぼぶっつけ本番となったが、ナターシャ・ヘンストリッジは、大半のアクションを自らこなした。ちなみに推薦したのは、本作に出演しているリーアム・ウェイトで、彼は当時ナターシャと婚約していたが後に別れる事になった。

出演者は他に、アイス・キューブ、ジェイソン・ステイサム、パム・グリアとかなり豪華だが、割とB級臭がするキャストな辺り、いかにもカーペンターと言った感じだ。もっとも、ステイサムはこの後大ブレイクしたのはご存じの通り。女性に関してはストイックな役が多い彼が、本作ではナターシャ・ヘンストリッジにナンパしまくるが相手にされないという、チャラ男を演じているのは面白い。

まだ髪があるステイサム

 

映画の構成は、冒頭でメラニー1人が乗っている列車が発見され、彼女が証人喚問される。そこでの証言と並行しながら何が起きたのか回想して描かれていく。割と手堅い手法だが、これにより観客はメラニー1人しか生き残らない事が、事前にわかってしまうので良し悪しはあるだろう。特に本作のように、最初からチームで登場している作品の場合、誰が生き残りかハラハラする事が無いだけに、デメリットが大きいと思う。

西暦2176年の火星はテラフォーミングにより84%の環境改造に成功。64万の人類が生活している。そして、火星では女家長制が敷かれており、火星警察が地球の法律を執行している。と、舞台となる火星について冒頭で解説されるが、「女家長制が敷かれ」とサラっと入れて言うあたり、見方によっては時代を先取りしているといえる。

ヘレナを隊長とする警察官の一団が、鉱山町のシャイニング渓谷から重大容疑者のウィリアムズを護送するため到着するところから始まる。冒頭でメラニーがヤク中であることが示唆されるが、勿論この伏線は後に回収される。これがカーペンターの思想を現しているとすれば、結構やばいが。

これぞカーペンター!お馴染みのヒャッハー軍団

 

しかし町は無人となっていて、街はずれには見るからにヤバそうなヒャッハーした連中が集まり、絶賛集会中。そして留置所には看守はおらず、通信係の女と収監されていた容疑者数人がいるだけ。うち一人のウィトロックは鉱山の科学者。他に、ジェリコが隠れていた3人と出会い留置所に連れて来る。町はずれに偵察に行ったヘレナは、ヒャッハーしている連中に首を刎ねられ、さらし首にされる。

なんやかんやあって、通信係の女が突然襲ってくるわ、他にも変な連中に襲われ、事情が分からぬまま応戦する一行。ウィトロックを問い詰めると、彼女は鉱山で見つかった遺跡の調査をしたところ、封じ込められた火星人の霊を解放してしまった。火星人の霊は人に憑依して相手を乗っ取り、その憑依された相手を殺しても次の体に移るだけで抜本的な解決策はない。留置所の中にも憑依された者も現れ、対応に追われる一行。そんな中、外にはあのヒャッハー集団が集結し留置所を取り囲んでいたのだ。

カーペンターだけに徹頭徹尾B級映画で、それ以上でもそれ以下でもない本作。本作の設定に重大な瑕疵があって、亡霊に乗っ取られた人間は、何故か全員ヘヴィメタみたいな格好になるのだが、まあこれは「カーペンターだから」で解決する?だろうが、このヘビメタ・ヒャッハー軍団をどれだけ倒したとしても、亡霊は別の奴に憑依するだけだから意味はない。そして、最後まで抜本的な解決方法は示されない。ラストも、如何にもカーペンターだし恐らく主人公たちが凶悪集団に取り囲まれて、決死の脱出を試みるといったビジュアルしか興味が無かったのだろう。まさに、後は野となれ山となれと言った感じだ。

しかし、だからと言ってつまらないとも言えないのも、これまたカーペンター。登場人物たちがみんなきざなセリフを吐き、カッコつけてイキリ倒す。クライマックスなんて明らかに、冒頭とのつじつま合わせの力技だが、それでもかっこよく思える。そして音楽もこれまたカーペンターらしくイカシている。とても万人受けする映画ではないが、ジョン・カーペンターが好きな人には確実に刺さる映画だ。