タイトル マッシブ・タレント

公開年

2023年

監督

トム・ゴーミカン

脚本

トム・ゴーミカン ケビン・エッテン

主演

ニコラス・ケイジ

制作国

アメリカ

 

本作は、かつては栄華を極めるも今はすっかり落ちぶれた、借金まみれのどん底の俳優がCIAと犯罪組織の争いに巻き込まれ、家族を守るため奮闘する姿を描いたアクションコメディ。良くある話の様だが、主人公の役名がニコラス・ケイジで本人が演じているところがミソ。似たような映画でアクションスターのジャン・クロード・ヴァン・ダムが演じた「その男ヴァン・ダム」があるが、あれのニコラス・ケイジ版と思って良い。ニコラス・ケイジはアクションもこなせるし演技力も人一倍あるのだが、浪費壁や結婚と離婚を繰り返したことから莫大な借金を作り、その返済の為2000年に入ってからはB級アクションやホラーに軸足を移し、2018年には8本もの映画に出演している。もっとも2本は声の出演で1本はドキュメンタリーだが、借金抱えて以降は合計46本もの映画に出演した。その事が功を奏したのか、現在では借金は完済している。

とは言え自虐ネタはリスクがあるので「よく出てくれたな!」と思ったけど、流石に最初はオファーを断ったようだ。しかし、監督のトム・ゴーミカンが直筆の手紙を出したことから、出演を承諾したという。とはいえ劇中登場する、若き日のニコラスを彷彿とさせる、もう一つの人格であるニッキーの登場は彼の発案なので、オファーを受けて以降はノリノリだったようだ。

映画の冒頭でマリアという少女が誘拐されるシーンがあるが、彼女はスペイン・カタルーニャの首相候補の娘。反政府のテロリストは、彼女の父親が選挙から撤退させるため誘拐したのだった。

それから舞台はハリウッドに移る。かつての栄光はどこに行ったのか。今日もリクルート活動にいそしむニコラス・ケイジだが、なかなか役が回ってこない。そんな中、若い頃の自分の人格ニックに叱咤激励される日々。妻とも別れ娘ともうまくいっていない。嫌気がさした彼は、俳優引退を決意するが、マネージャーから「スペインの大富豪のハビに会ったら100万ドルくれるぜ」と言われる。嫌がりながらも金には勝てず、しぶしぶマヨルカ島に出向くニコラス。しかし、そこにはCIA工作員のヴィヴィアントマーティンが待っていた。二人は冒頭の誘拐事件を仕組んだのはハビとにらみ、彼の元に潜入するエージェントを待っていたのだったが、何とそこに現れたのはニコラス・ケイジ。仕方なく二人は彼に事情を話し協力してもらう。当然だがニコラスは拒否。しかし自分の娘ほどの少女が誘拐されたことを聞かされ、しぶしぶ協力する。

大富豪のハビを演じているのは、ペドロ・パスカル。「ゲーム・オブ・スローンズ」や「マンダロリアン」の出演が知られるが、彼が演じるのは“いい人なのか?悪い人なのか?”がいまいち不明瞭な役が得意。本作でもニック・ケイジに心酔する一方で、裏の犯罪組織のボスの疑惑もあるという、これまた絶妙な役。二人の息ぴったの掛け合いが、大スターと大ファンそのまんまなのが、ファン心をくすぐる様になっている。

これが終盤で大活躍。勿論蝋人形じゃない方

 

ハビと交流を重ねると、彼が悪党には見えず板挟みになり苦悩する。そんな中、ハビがニコラスの家族を呼び寄せた事から一挙に緊張感が増す。そんな中、ハビはいとこのルーカスと会うが、実はマリアを誘拐したのはルーカス。彼は武器商人でテロリストとも繋がっていて、ハビは単なる表向きの顔に過ぎなかった。ルーカスはニコラスがCIAに協力していることを警告し、彼を殺すように命じる。拒否すればルーカスはハビを殺すだろう。二人とも絶体絶命のピンチに追い込まれる。というものだが、本作の魅力の一つが、随所に挟み込まれたニコラス・ケイジ出演作のパロディ。それを拾い集めるのはファンにとっては楽しい事だろう。

ラストで何とデミ・ムーアがカメオ出演

 

そうしたファン心をくすぐる、数々の演出も見逃せない。冒頭で誘拐されるマリアが、実はニコラス・ケイジの大ファンで「コン・エアー」を観て「ニコラス・ケイジ最高!」と叫び、自分を助けに来てくれた白馬の騎士がニコラス・ケイジなのを知って目を輝かせるシーン。そして、大ファンのペドロのコレクションルームには、彼の出演作の関連グッズの数々が収められている。中でも圧巻なのは「フェイス /オフ」での黄金の2丁拳銃を持った、等身大のニコラス人形。微妙に人形感が出ているのが良い。

中盤以降の潜入捜査の件は結構グダグダなところもあるし、終盤のアクションシーンはもう少し派手にした方が面白かった。そしてクライマックスの現実から映画への転換も、あまりうまく行っているとは言えない面もある。しかし、がけっぷちの俳優が降りかかる危難を乗り越えて、家族との絆とかつての栄光をも取り戻すという、ある意味ド定番の映画をニコラス・ケイジという材料をうまく領する住事で作り上げているのはお見事。彼のファンはもちろん、ファン以外でも楽しめる映画に仕上がっている。