タイトル 黄色い風土

公開年

1961年

監督

石井輝男

脚本

高岩肇

主演

鶴田浩二

制作国

日本

 

本作は、社会派推理小説の巨匠・松本清張の長編推理小説「黄色い風土」を映画化したもの。原作は北海道新聞・夕刊等に連載された「黒い風土」を単行本化にあたり改題したもの。週刊誌の記者が、戦時中に端を発する秘密組織の謀略による連続殺人事件に挑むミステリー長編。ちなみに松本清張は小説の出来があまり気にいっておらず、単行本化の許可をなかなか与えなかったとされる。そして単行本化にあたって、かなりの削除、改変が行われている。単行本の慣行は61年5月で映画公開は同年9月なので、微妙だが単行本を原作としたと思われる。それにしてもこの頃の邦画のスケジュールはタイトだ。

当時関係があった二人。全く東映の風紀は乱れている

 

映画は、週刊東都の記者・若宮が、女性問題の権威・島内に原稿を依頼の為、熱海に向う車中、見送人のいない新婚夫婦と、哲学書を読みふけりながらカトレアの匂いを漂わせて隣に座った美貌の女に興味を引かれたところから始まる。

島内が止まっているホテルは満室というのを何とかねじ込んで泊めてもらうが、その夜彼の部屋に黒い洋服を届けた男がいたが、部屋番号を確認すると慌てて出ていく。ちなみにこのホテルは、当時の熱海では一流のホテルの「つるやホテル」。予約位しろよと思うが、当時はそんなものだったのかもしれない。

翌日島内にオファーを受けてもらい、ほっと一息ついた若宮。だがそのときもなぜかカトレアの匂いがする。その後、錦ケ浦で自殺があった事を知るが、その男は昨日の見送りのない新婚夫婦の男の方で女は行方不明となる。若宮は、昨夜の洋服を届けた男は、二人の部屋が481号室であり、自分の部屋の431号室と間違えたのだと推測。そしてこの事件が単なる自殺でないこと睨み、同意見の編集長に木谷の許しを得て、同僚の田原と共に調査を始める。田原を日に悪役で人気となる曽根晴美が演じているのに、思わずニヤリとなった。今だと「きっと裏がある」と思うところだが、この頃はまだ悪役に固定されていなかった。

ロケに出ないのはこの頃から。それでも海外ロケは欠かさないとか

 

更に、ホテルのフロント係・春田が、名古屋の西山旅館で殺された。急ぎ名古屋に飛んだ若宮はいかにも人の良さそうな旅館の主人と、しっかり者と言った女将に話を聞くが、部屋に課虎アが飾ってあることに愕然。そして島内と偶然に会う。

特に収穫もなく、東京へ帰った若宮は、若宮の部屋に洋服を間違えて届けた男が、真鶴岬でニセ札をポケットに入れて惨殺されたとのニュースに接する。その頃世間では、偽札が出回っている事が騒ぎとなっていた。

急ぎ真鶴に飛んだ若すぎだったが、真鶴印刷所が火事で全焼した事を知る。そして、印刷所主人の奥田が、木曽川下流の犬山で奥田は水死体となり発見される。若杉が追う相手は次々と殺され、その近くに必ず島内がいて、更に謎のカトレアの女の影がある。それでも執念で事件を追う若杉だったが、カトレアの女を追っているうちに交通事故にあう。軽症だったが謝罪に来た車の持ち主・桜井にどこかで会った気がした。彼が背中を向けた時、つるやホテルにいた事を思い出し愕然とする若杉。こうして彼は、謎の偽札偽造団のかけた罠にはまっていくことになるのだった。というのがおおよその粗筋。

曽根晴美が鶴田の同僚で後輩を演じるのも、この頃ならでは

 

劇中に登場する陸軍の偽札製造部隊の元ネタは、登戸研究所第三科北方班が行った、中華民国のインフレを助長し経済を混乱させる目的で始まった、所謂「杉工作」だろう。この工作は、肝心の中華民国政府が戦争によるインフレの為高額紙幣を乱発した事で、小額紙幣をターゲットにした為無意味となり、中国経済を混乱させることは出来なかった。その一方で現地軍の物品調達には役に立ったようだ。もっとも戦後、中華民国側からこの工作の事を知りつつも、小額紙幣にまで手が回らなかったので半ば放置していたということが、国民党政府の要人により仄めかされている。それに日本では米ドルの偽造は行っていない。米ドルの偽造は、ナチスドイツがユダヤ人印刷工を使った、ベルンハルト作戦でも失敗している。

ナチスによる偽札作りを描いた傑作

 

私は、社会派推理小説が苦手で原作を未読。したがって、原作との相違点などは分からないが、松本清張独特の回りくどさが無くて、割とサクサク見る事が出来た。その一方でキャバレーでの半裸のダンサーや、クライマックスなどに石井輝男らしさが見られる。そもそも松本清張と石井輝男という取り合わせは違和感しかない。

しかし本作は、私のような社会派推理小説が苦手な人でも、あっさり見る事が出来る程見やすい作りになっているが、その最大の原因は鶴田浩二が演じる記者が、おのれの信念に忠実にがむしゃらに突っ走る事で、物語を引っ張っている事による。そしてその信念はおおむね的中する。紆余曲折があまりないので、この辺り、原作を削っているのではないかと推測できる。そして謎めいたカトレアの女もあまる深堀されず、その正体はラストで黒幕から一方的に明らかとなるなど、ヤケにあっさりしている。そもそも本作を見ると、彼女が若杉に惚れた理由がよくわからない。鶴田浩二は当時、カトレアの女を演じた佐久間良子と関係があった様なので、まさかその事を見越したキャストなのか?と勘繰ってしまう。それと本作の黒幕は、映画を見ていると、脇役にしては人物が深堀されているキャラがいるので、中盤である程度は察しが付くし、後半になるともうそれは確信へと変わる。

総じて社会派ミステリーとしてはどうかと思うが、サスペンス・アクション映画としてはラストの派手な大爆発シーンを含めて、それなりの出来だと思う。ちなみにあのシーンで鶴田浩二の近くで爆発が起きているが、あれは特効のタイミングミス。「カット」がかかると鶴田浩二が真っ赤になって飛んできて「俺を殺す気か‼」と怒り狂ったそうだ。