タイトル 東京エマニエル夫人

公開年

1975年

監督

加藤彰

脚本

中野顕彰

主演

田口久美

制作国

日本

 

タイトルからお察しの通り、メガヒットした「エマニエル夫人」の清々しいまでの便乗映画。「エマニエル夫人」の公開は1974年の12月なので、半年しか経過していないため相当な突貫工事だったことが推測される。当初は五月みどりにオファーしたが断られたため、東映の「ウルフガイ 燃えろ狼男」撮影時のヌード・グラビアが「エマニエル+モンロー=田口久美」というタイトルで週刊プレイボーイに掲載された田口久美に出演交渉。最初はポルノ映画ということで難色を示していたものの、結局押し切られて承諾させられた。

製作費は1000万円のうち田口のギャラは70万円だったとされる。しかし公開されるや否や、日活ロマンポルノ始まって以来の大ヒット。異例の三週間のロングランとなり、プリント不足で急遽焼き増しする事態に。結局配収3億円と、日活ロマンポルノの新記録となった。これに味を占めた日活は、同年11月に田口の主演で「東京エマニエル夫人 個人教授」を公開するという、これもすさまじい早業を披露。大ヒットさせる事に成功する。主演の田口久美は日米ハーフで彫の深い、整った顔立ちに均整の取れたプロポーションから人気となる。ただ、これで収まらないのが彼女を発掘した東映で、専属契約を結んでいなかったことに目を付け、田口の主演で「東京ディープスロート夫人」を製作するという、仁義なき戦い状態となる。この頃の、斜陽を迎えていた邦画界の苦闘がうかがい知れるエピソードだ。

映画はフランス・パリで、フランス人の夫が4日も戻らず悶々とした日を過す主人公の今日子。疼きを抑えきれなくなり帰国する事にする。70年代にこんな理由でホイホイ帰国できるとは、どれだけセレブなのか。

東京には英子が迎えに来ていたが、彼女とはかつてレズの関係。色っぽいうえに無防備な今日子は、早くも運転手に迫られる。ちなみに今日子はヤリ〇〇ではなく、夫が初体験でそれ以来浮気が無いという、かなり身持ちが硬い設定だが、この状況だととても信じられない。英子が通うフィットネスジムで汗を流し、そこで同じような有閑マダムとトップレスでダべるサービスがあったりする。

アンニュイなけだるさに満ちたオリジナルだが、本作は全般的に安っぽい

 

そして、高級クラブに出かけた今日子は、英子から女子大教授の牧を紹介された。セックスとエロティシズムについて説く牧に、惹かれる今日子。

牧は今日子にあらゆる性の喜びを伝授する。衆人監視の乱交パーティで抱かれ、ロープウェイの中で野蛮な男に犯され(このシーンの撮影に15回もロープウェイで上下し、高所恐怖症の田口は参ったようだ)、ラグビーの試合中に泥まみれになりながら、若い選手たちにかわるがわる犯される今日子。更に馬上にて3人でのトリプルセックス(この時は、急に馬が暴れて彼女も振り落とされたが、それでも撮影を続けた)。いずれも歓喜の声を上げ、淫らな女に変貌していく。

ロープウェイでレイプされるシーンの撮影は、本当に大変だったようだ

 

粗筋からお分かりのように、パリでセレブ暮らしを満喫する田口久美扮する今日子が、夫が構ってくれなくなったので、若い肉体を持て余し、帰国して今日子の前に現れた大学教授の指導であらゆるセックスを学んでいくという、まんま本家と同じ内容。ここまで見事にパクっているのは、ある意味称賛に値する。アリアンヌ夫人が英子で、マリオが牧(なんと分かりやすい!)と、キャラクターもほぼ同じ。ただ大きく異なるのは本家は女性向けソフトポルノとして作られたが、本作のターゲットは男である事だろう。そのせいか、オリジナルの様なけだるいアンニュイさはあまり感じられない。有閑マダムたちの会合でも、どちらかと言えば下町のおばちゃんの、井戸端会議じみた安っぽい感じだ。予算が違うといえばそれまでだし、本作のスタッフは誰一人としてセレブがどんな生活を送っているのか知らなかったのだろう。もっともそれは最近の邦画にも見られるから、邦画にとっては超えられない壁なのかもしれない。

ストーリーがあって無きがごときなのは、主演の田口久美の演技が期待されていなかったので(すでに映画デビューしていたしテレビドラマにも出ていたので、演技ど素人ではないが)、とりあえずセックスで魅せようとしたのだろうが、結果としてそれが良かったと思う。

彼女を東映に取られ、怒り心頭の日活をなだめるため、田口の所属事務所は元ゴールデンハーフの高村ルナを紹介した事で、日活の怒りが収まったという。当時の日本人の西洋に対する劣等感を見せつけられるような気がして、複雑な気分になる。そして、当時の映画会社の女優への意識が見受けられるエピソードだが、その本質は今も変わっていない様に感じる。