タイトル マッドマックス:フュリオサ

公開年

2024年

監督

ジョージ・ミラー

脚本

ジョージ・ミラー ニック・ラザウリス

主演

アニャ・テイラー=ジョイ

制作国

オーストラリア・アメリカ

 

ジョージ・ミラー監督が描いた「マッドマックス・シリーズ」の最新作で2015年に公開され、日本でも熱狂的なファンを生んだ「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。これに登場し、主役のマックスを押しのける活躍で、熱狂的なファンを呼んだ女戦士フュリオサの若き日の物語を描くアクション映画。「マッドマックス・シリーズ」の中では初のスピンオフ映画となる。もっとも前作の主役はフュリオサで、マックスは後半活躍するお助けキャラの扱いだったが。

前作の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は大ヒットしたかと思っていたが、調べ直したら製作費1億5000万ドルに対して、興行収入が3億7500万ドルとぎりぎり損益分岐点クリアと言った程度だった。ブームを呼んでいたので、てっきり最低でも5億ドル。下手したら8億ドルぐらい行っていると思っていただけに、この結果は意外だった。恐らく旧シリーズのファンたちは大いに盛り上がったが、新規のファンは上手く獲得できなかったのだろう。ただこのシリーズは熱狂的なファンが多く、円盤や配信などは好調だったので、それらを含めるとヒットと言っていいだろう。ただ、本作まで8年かかっているのも前作が思ったより伸びなかったことも影響していると思う。そこで本作だが、製作費が1億7000万ドルと、前作よりアップしている。どういう勝算があるのか分からないが、北米で30日までの興行成績は3720万ドル。全世界で7000万ドルと寂しいスタート。恐らく損益分岐点クリアは難しいと思う。その一方でRotten Tomatoesは批評家、観客とも高評価。恐らくこれは、「マッドマックス」ファンしか見に行っていないからで、前作以上に中間層への訴求に失敗したという事だろう。

戦争、自然災害などで文明が崩壊して数年後。汚染されたオーストラリアは一面荒野が広がっていたが、その中でもごく一部に緑豊かな場所があった。「母なる緑の地」と呼ばれる鉄馬の女たちが密かに隠れ住む地域。幼いフュリオサと妹のヴァルキリーが桃を摘んでいる時バイカーホードの偵察隊に遭遇。彼らのバイクに細工しようとして捕らえられてしまう。すぐに母親のメリーが追いかけるが、バイカー・ボードを率いるディメンタスに捕らえられ、メリーは殺され、フュリオサはディメンタスの養女にされ、同行させられることになる。

ある日、ウォーボーイズから豊富な水を持ち農作物が採れるシタデルの事を知った、ディメンタスたちは襲撃するが、狂信的に戦うウォーボーイズに撃退されてしまう。

ヒュー・キース・バーンは2020年に没しているのでラッキー・ヒュームに交代

 

そこでディメンタスは一計を案じ、シタデルから食料を得る代わりにガソリンを提供するにガソリンを供給するガスタウンを占領する。そこでディメンタスはイモ―タン・ジョーと交渉し、医師とフュリオサと引き換えに食料と水の供給を増やすことに同意する。ここで、フュリオサはディメンタスからイモータン・ジョーの所有物となり、いずれ彼の子を産むワイブズとなる運命が課せられる。しかし、ジョーの息子リクタスがフュリオサに惹かれ、それを察知した彼女は彼を利用し脱出する計画を立てる。こいつムキムキのマッチョのくせにロリコンだったのか!この時彼女は自分の髪を剃ってカツラにしていて、リクタスから連れ出された時脱出に成功。その後、少年に化けた彼女は10年余りも素性を偽って暮らし、脱出の機会をうかがっていた。そんな中、彼女は重武装の補給戦車「ウォーリグ」の乗員となっていた。

この部隊の指揮官のジャックは、狂気に陥っていた荒野の集団の中でも理性と沈着さを備えた人物。敵の攻撃でリグの乗組員は二人を残して全滅。好機と見たフュリオサはリグをカージャックして母なる緑の地に戻ろうとするが、ジャックに阻止されてしまう。荒野に置いて行かされるが、戻って来たジャックに手伝うことを条件に、シタデルから脱出する手助けをすると申し出、フュリオサはそれを受け入れる。何時しか二人に強いきずなが生まれ、虎視眈々と脱出の機会をうかがっていた。その頃ディメンタスはガスタウンの統制に失敗し、シタデルやバレット・ファームへのガソリンの供給に支障をきたしていた。そこでイモータン・ジョーと武器将軍は手を組み、ガスタウンの襲撃を計画しその為の武器弾薬の調達にリグをバレット・ファームに派遣するが、ディメンタスはその事を予知していた。

フュリオサにとっては母とバディの仇。その終末はエグイ

 

やはりフュリオサの魅力の大半は、演じたシャーリーズ・セロンが担っていた事が良くわかる。美しさ。気高さ。ストイックさ。そして故郷が無くなったことを知ったとき悲観に暮れる弱さ。それらの併せ持つフュリオサを見事に演じていた。本作のアニャ・テイラー=ジョイは、やはりシャーリーズ・セロンと比べると力不足に感じる。ただ、本作は若き日の物語で、中盤まで子役が演じていてほとんど台詞が無いから、余計そう感じるがだからと言って悪いわけではない。不満と言えば不満だが、これは最初に模範解答のキャストを見せられたからそう感じるのであって、本作が先だったら彼女のフュリオサに充分満足していたはずだ。それに、シャーリーズ・セロンに20年前のフュリオサを演じさせるわけにはいかない。もっとも最近のAI仮面で20代の頃のシャーリーズ・セロンの顔をはめ込むことは可能だろうが、「マッドマックス」でそれはやって欲しくない。

一方で、シタデルの警護隊長ジャックを演じたトム・バークは光るものがある。誰も信じる事が出来ない荒廃した世界で、フュリオサが唯一心を許し信頼し合った相手。中盤は二人のバディ物という面もありここが一番盛り上がったパートだ。そして彼の存在が、前作で彼女がマックスに心を開いた理由でもある。マックスにジャックと同じ匂いを感じ、彼を信じる気になったのだろう。

マックスと言えば、本作にはワンカットだけマックスが登場しているが、流石にトム・ハーディのキャストは無理だったようで、前作でトムのスタントマンをやったジェイコブ・トムリが演じている。

そして悪役の中で、異彩を放っていたのがディメンタス。フュリオサにとっては母を殺し、唯一信頼していたバディを殺した憎い相手だが、彼も家族を亡くし修羅の道を進まざるを得なかったという、忌まわしい過去を持ち、子供の頃のフュリオサに屈折した愛情を持っていた様だ。それに結果論だが、「怒りのデス・ロード」で明らかとなる母なる緑の地のその後を見るとフュリオサの命の恩人となるわけだから、何とも複雑な設定を持ったヴィランだ。 そればかりか、とてつもない胸糞ぶりを発揮するときもあり、それだけキャラが深堀されているだけに、フュリオサが狙う復讐の相手としては理想的と言える。演じたクリス・ヘムズワースは、「マイディ・ソー」を始めとするマーベルシリーズのソーが有名だが、今作では一見脳筋に見えて、実は深みのある人物を好演している。ただ、これは本作のもう一つの弱点と表裏一体だが、彼と対峙したフュリオサが「私の事を覚えている?」と、前作でイモータン・ジョーに放ったのと同じセリフを放っている。確かに本作を見ると、フュリオサがディメンタを憎むのは当然だが、その一方でイモ―タン・ジョーにあの台詞を放った理由が、本作では描かれていない。本作はイモ―タン・ジョーはそこまでの悪党には描かれていないし、フュリオサに何か恨みを買うようなこともしていない。以前、「怒りのデス・ロード」で書いたとおり、フュリオサは子供が産めなかったので、イモ―タン・ジョーから酷い扱いを受けそれ以来憎んでいるという裏設定があったのだが、本作には全く描かれていない。

多少の不満はあるが特に致命的ではないし、中盤に多少中だるみを起こすものの、最後まで退屈せずに見る事が出来た。大きくコケる様な映画でもないと思うのだが、それでも興行的に厳しい理由は何だろうか。元々そんなに万人受けする映画じゃないというのが一番大きいだろうが、前作にすら及ばないとなると、他に理由があるように思える。

実際本作は、ストーリーのテンポが良く、フュリオサを始め悪役たちの魅力的に描かれ、手変え品変えの戦闘シーンに、フュリオサの人物描写の濃さなど最後まで飽きさせることなく面白い、第1級のエンタメに仕上がっている。あまり先入観を持たずに是非とも見て欲しい。前作を見て面白く感じたなら、本作も十分満足できると思う。何せ本作んお結果いかんで「マッドマックス・シリーズ」が終了するかもしれないのだから...