タイトル パリより愛をこめて

公開年

2010年

監督

ピエール・モレル

脚本

アディ・ハサック

主演

ジョン・トラボルタ

制作国

フランス

 

リーアム・ニーソンを、アクションスターとしてブレイクさせた「96時間」の製作リュック・ベッソン&ピエール・モレル監督のコンビによるスパイ・アクション。この二人が組むのだから、内容はお察しと言ったところで、テンポが良い物語と外連味溢れるアクションが繰り出される一方で、内容は相当スカスカ。深く考えては駄目な映画で、まさに「考えるな!感じろ!」系の映画だ。

主人公のリースが指令を受けていた人物の正体等、未回収の伏線もあるので「96時間」同様にシリーズ化を考えていたようだし、リュック・ベッソンもジョン・トラボルタも続編に意欲を見せていたが、製作費5200万ドルに対して興行収入も5200万ドルと、赤字となったので、続編はなさそうだ。前に書いたかもしれないが、製作費と映画を作るに必要な経費。それに映画館の取り分とマーケティング費用が加わるので、製作費の2.5倍から3倍稼がないと、製作費は回収できない。これからも分かるとおり、どれだけ批評家受けする映画を作っても、稼がないとどうにもならないのが映画産業だ。

この凸凹コンビ。最後まで息が合うことはなかった

 

主人公のリースは駐仏アメリカ大使の補佐官。しかし、彼はCIA工作員見習いでもあり、彼はいつか正規の工作員となってスパイ活動を行う事を夢見ているが、現実は厳しく正規の工作員の準備作業を明け暮れる日々。彼にはキャロラインというエロくてかわいい恋人がいて、私生活は順風満帆。主演のジョナサン・リース=マイヤーズは本作では真面目な役だったが、かなり酒乱らしくあちこちで酒をめぐるトラブルが多い。2011年もフランスでトラブルを起こし、罰金刑に処されている。

パリでアフリカ支援のサミットが開かれることになり、リースもその準備に追われるが、そんな時CIAの上司から「そっちにワックスという工作員が行くから相棒になれ」という命令が届く。空港に迎えに行くと、ワックスは持ち込み禁止の栄養ドリンクをめぐり税関と絶賛口論中。ドリンクに「外交文書」のステッカーを張ってとりあえずおさめたが、ワックスはその中に銃を隠していた。そしてそのまま中華料理店で大暴れ。すると奥からスタッフやコックが銃をもって応戦してくる。何が何やらわからない中ワックスはあっという間に中華料理店を制圧。天井に大量のヘロインが隠されている事を発見する。さらにそこから逃げ出した従業員を追ってパキスタン系テロ組織のアジトに乗り込み、そこでも大暴れ。彼らを壊滅させてしまう。しかし、パキスタン系テロ組織が経営する娼館で、キャロラインを見つけ、ちょっと気まずい空気の中を、自宅にワックスを招待するリース。普通に考えたら自分の恋人がそんなヤバい場所にいたら、彼女を疑うところだが、このリースは人が良いのかまったく恋人を疑っていない。案の定彼女はテロ組織のエージェントで、ワックスはその事に気が付き、彼女の友達を射殺し後を追うが、間一髪で逃げられてしまう。その際リースはキャロラインに肩を撃たれてしまう。その後CIAが調べたら、盗聴器が出るわ出るわ。いや、お前一応CIAなのに、これまで盗聴器のチェックもしなかったのか?

主人公の恋人にしては妙に出番が多いと思ったら...

 

ワックスは、彼女の目的がサミットに来るアメリカ代表を狙って彼に近づいたのだと考え、負傷したリースを置いて空港から会場に向かうアメリカ代表団へ向かう。すると彼女を逃がした車が、アメリカ代表団に近づいている事を見つけ追跡する。その頃リースはそんな荒っぽい手段をとったにしては、自分に接近した意味が無い事に気が付きサミット会場の大使館に向かうと、既に自分の入館証が使われている事を発見するのだった。

余談だが、アメリカの代表を演じているアレクサンドラ・ボイドはイギリスの俳優でアメリカ人ではないが、そんな些細な事はリック・ベッソンにはどうでもいいのだろう。そもそもジョナサン・リース=マイヤーズもアイルランド人だし。

スキンヘッドが妙に似合うトラボルタ

 

原題は「From Paris with Love(パリより愛をこめて)」と、珍しくそのまんまの邦題だが、これは変えようがない小洒落たタイトル。ただ、内容には多くの観客がパリからイメージする小洒落た雰囲気は一切ない。そういえば、リュック・ベッソンは「96時間」の中で、パリを世界有数の犯罪都市のように描写していたが、外国の観光客が夢想するような「花の都パリ」に違和感でも持っているのだろうか。確かに現実のパリは結構小汚い様だが。

本作にも一応エッフェル塔は出てくるが、観光案内的な部分は無く、パリ市から抗議されなかったのか?と思う程、パリの裏側のダークな部分ばかり描いている。

そしてストーリーは冒頭で述べたとおり、もうがばがば。絶対目立ってはいけないのがスパイのはずなのに、このワックスは空港税関に始まり、中華料理店にマフィアのアジト。そして娼館と暴れっぷりが半端ない。あれだけ殺戮と暴力を撒き散らしているのに、何のお咎めもないというのも不思議だがこの辺りを考えていたら映画は見られない。そして、この前半の大暴れは後半と全く繋がっていないというのもまたすごい事。ワックスは麻薬の捜査に来たので、キャロラインらの事はついでの事だった。ということになるのか?それとも本命はキャロラインの方で、偽装の為麻薬の捜査をしたのかは、劇中で明らかとならないし、そんな事はリュック・ベッソンにとってはどうでもいい事なのだろう。彼はパリを舞台に屈強なスパイが大暴れするアクション映画を撮りたかったのであって、リアルで緻密なサスペンスなど興味はない。その最終形態が前年に作った「98時間」だが、あちらは成功したのにこっちが失敗したのは何故かといえば、それは主人公が戦い必然性。「98時間」では、娘が誘拐されるという親なら誰でも共感できる理由があったが、本作のワックスにはその理由が無い。リースには一応あるが、それが出てくるのは後半になってからで、前半は単に巻き込まれているだけ。それも二人はあまりいいコンビに見えないという、致命的な問題がある。ラストでリースは正規の工作員になるが、自分の彼女がテロリストなのに全く気が付かないようなぼんくらを正規にしていいのか?

ただ、ジョン・トラボルタのキャラクターや暴れっぷりは見ていてスカッとするし、結構魅力的で、アクションも見ごたえある。リースのキャラクター次第で面白くなっていたと思うので、ちょっと残念な作品だったと思う。